「い〜い?このひろ〜いせかいはねぇ、きけんでいっぱいなのよっ」

 両手を大きく広げてアスカは力説した。
 場所は碇家から少し離れたところにあるお地蔵さまを祭っているところ。
 小さな縁台も置かれているのでレイをそこに座らせてアスカは彼女の前でずんっと立っていた。

「きけん?どんな?」

「ふっふっふぅ、よ〜くきいてくれたわね」

 質問してくれなかったら困っていただろう。
 昨日の夜にお風呂の中で指折り数えていたのだ。
 外で遊ぶには何に注意したらいいのか。
 新しくできた友達にいいところを見せたくて張り切っているアスカだった。
 
「まずは、かいじゅ〜ね」

 レイの目がかっと開かれた。

「うそ。あれはてれびのおはなし…」

「あまいっ!」

 アスカの大声にびくんと震えるレイ。
 その目の前にびしっと突きつけられる人差し指。

「ごほんにかいてあったのよ。イギリスのネスこってみずうみにはネッシーってかいじゅ〜がいるって」

「ほんとう?」

「ごほんがうそつくわけないじゃないっ」

 レイは本当にそうなのか考えた。
 本が嘘を書くのかどうか。
 それでは、白雪姫や三匹の子豚も本当にある話だというのか。
 浦島太郎は玉手箱のおかげでおじいさんになってしまったのだろうか?
 それはわからない。
 それにアスカにそういった話をすべて信じているのかと訊くのは憚られた。
 ただ、何となくであったが。

「アンタ、ここはにほんだからってゆだんしちゃいけないのよっ。
 ネッシーはいなくてもおいわさんとかおきくさんとかぼたんど〜ろ〜とかいるんだから」

「なに、それ。しらない」

 ちょこんと腰掛けたレイが素直に口を出す。
 曽祖父トモロヲと去年の夏、背筋を震わしながら『夏の納涼怪談時代劇大会』を毎日堪能してきたアスカだ。
 怪談話にはちょっとうるさい。
 だが夜中にトイレにいけなくなって母親に迷惑をかけたことは秘密にしておこうとアスカは即断する。

「いんがお〜ほ〜ってじ〜じ〜がいってたわよ。
 わるいことをしたひとはたたられるのっ」

「たたるって、なに?」

 レイは少し慌てていた。
 アスカと話していると知らないことばかりなのである。
 彼女は決心した。
 もっとお勉強をしようと。
 アスカと普通におしゃべりをしたい。
 教えられることでいっぱいだ。
 アスカは身振り手振りに加えて台詞も真似て、怪談劇を再現していった。
 演題に選んだのは番町皿屋敷である。
 ところが話を進めるにしたがってレイの様子がおかしくなった。
 身を固くして息を飲んでいるのだ。
 
「まって。おきくさん、ころされたの?」

 真っ白な顔を蒼くして、レイが質問した。

「うん、おまえがわったのじゃってかたなでばっさりっ!」

「きゃっ」

 アスカの身振りで振った刀が見えたような気がした。
 レイが頭を抱える。

「それからいどのなかにどっぷんっておとしちゃうの」

 頭を抱えたまま、わなわなと震えだすレイ。

「それからまいにち、おきくさんがいどからでてきて、いちま〜い、にま〜い……あれ?どしたの?」

 熱演していたアスカがレイの様子がおかしいのにようやく気づいた。
 レイは下唇を突き出してぼろぼろと泣いていたのである。

「わっ、ごめんっ。こわかった?ごめんねっ」

「ち、ちがうの。わたし、おさらわったの。ころされちゃう」

「えええっ」

 怪談皿屋敷を見た後は皿を割るまいと慎重になっているアスカである。
 怖い話を見るのは好きだが、お化けになどなりたいわけがない。
 それがこのレイの告白だ。
 アスカもびっくりして、重いレイの口をこじ開けたのであった。
 その話によると、大晦日におせち料理の重箱から伊達巻をつまみ食いしようとしたとき、肘が当たってテーブルの上の小皿が床に落ちたのだ。
 きれいに二つに割れたお皿をレイは自分の部屋のおもちゃ箱の中に隠した。
 お人形さんの衣装ケースの中にティッシュで包んで祖母に見つからないようにしたのである。
 ふだんなら素直に謝っているところなのだが、おせちのつまみ食いは厳禁だったのでレイとしては隠す他なかったのだ。
 アルピノの孫には甘めのハルナだったが、伊達巻好きのレイを放置しておくと
 正月を迎える前に一列縦隊の伊達巻だけが重箱から姿を消してしまうことが明らかだった。
 そこでもし伊達巻を食べたら大きな注射を赤木先生に射ってもらいますからねと脅したわけだ。
 こんなところで悪役にされてしまう赤木診療所のナオコ先生も堪ったものではない。
 ともあれ、注射が怖いレイだったが、それでも伊達巻の魅力には勝てなかった。
 ほんの少しだけかじっただけならわかるまいと、ハルナがお風呂を洗っている隙に犯行に及んだのであった。
 その結果がこれである。
 割れたお皿を手に、そしてしっかりと伊達巻を一切れ口に咥えてレイは台所から遁走したのだ。
 そんな悪事の経験をレイはすっかりアスカに話した。
 思いもかけない友の懺悔にアスカは腕組みをした。

「ううぅ〜ん、どうしよう…」

「わたし、おばけになるのね。おさらをかぞえるのね」

「だいじょ〜ぶ、アタシがアンタをまもったげるからあんしんしなさいっ」

 何の根拠もなくアスカは大言壮語した。

「おふねにのったきで、アタシにまかせなさいっ」

 それはお舟ではなく大船である、などと突っ込みを入れるものは周りにはいない。
 そして、アスカは思いついた。

「おはらいよっ」

「あわらい…?」




 
 そこから少し歩いたところにお寺と神社が隣り合わせに並んでいる。
 もっともその間にはこんもりとした森があるので完全なお隣さんとはいえないが。
 片側は20段ばかりの石段の先に赤い鳥居が鮮やかな翡翠神社。
 森の緑色を挟んで、どっしりとした山門が目を惹く龍巌寺。
 
「おはらい…。どっち?」

 お祓いの意味を教えてもらったレイの問いにアスカは少しだけ考えた。
 腕を組んで、首を傾げて。
 お祭りの夜店がよく出るのは翡翠神社。
 だから明るいイメージをそちらの方にアスカは持っている。
 片や龍巌寺には境内の奥に墓地があったりして暗めのイメージが強い。
 さて、どっち?

 アスカが選んだのは龍巌寺の方だった。
 理由は簡単。
 怪談に出てきそうな雰囲気だからだ。
 山門に掛かっている古ぼけた表札には厳しい筆跡で龍巌寺と書かれている。
 
「なんてかいてあるの?」

「りゅーがんじ」

「アスカちゃん、すごい」

 えへんと顎を上げるアスカだが、もちろん文字を読んだわけではない。
 トモロヲに教わっているのである。
 ちなみに隣の神社の名前は“かわせみ”。
 これもトモロヲから聞いたのだ。
 しかしレイはますますアスカの知恵と知識に敬服していた。
 アスカを兄事…ではなく、姉事することをこの時決めたレイだったが、
 その決意はやがて有名無実になる。
 何故ならやる気になったレイはアスカに劣らぬほどの知恵と知識、そして元気を身につけることになるのだから。
 アスカとレイは天才美少女コンビとしてこの後15年弱、この町内に君臨することになる。
 それは先の話で、ここで語られることはない。
 
「それじゃ〜、のりこむわよっ」

 しっかりとレイの手を握ってアスカは歩き始めた。
 5段ほどの石段を登り山門をくぐると、お寺の中はしんと静まり返っていた。
 龍巌寺の方は平地にある。
 そこから見上げても翡翠神社は少しも見えない。
 逆に森が迫ってきているように見える。
 土塀のすぐ上まで鬱蒼とした枝が圧し掛かってきているような感じだ。
 アスカとレイは境内からそちらを見て何となく圧迫感を覚えた。
 風が走りさわさわさわと葉が鳴る。
 冬の空は晴れているのに少し重い。
 アスカはごくりと唾を飲み込み、レイは繋いでいるアスカの手をギュッと握り締めた。
 ムード満点である。
 アスカはちょっとだけ早足で寺の入り口の方に向かった。
 扉は開け放たれているが、その奥は静まり返っている。
 アスカは息を大きく吸い込んで中に向って叫んだ。

「たのもぉ〜っ!」

「なに、それ。こんにちはじゃないの?」

「もうっ、アンタものをしらないわねぇ。ど〜じょ〜やぶりはこうやってさけぶもんなのよ」

 道場破りが何たるかを知らぬレイはなるほどと頷く。

「レイちゃんもいっしょにさけぶのよ」

「うん、わかった」

「せぇ〜の…」

 レイはアスカの半分くらいの声しか出なかった。
 それが不満だったのだろう。
 反応がないのでもう一度叫ぶ時にはレイの声は格段に大きくなった。
 3度目にはさらにお腹の底から声が出せた。
 それが嬉しくて、ふふふと笑うレイ。
 アスカもそういうレイの様子が嬉しくてたまらない。
 そして、また声を合わせて中に「頼もう!」と呼びかける。
 しかし、幼女二人の叫び声はそのまま暗い廊下の奥に吸い込まれていった。

「おるす?」

「う〜ん、よ〜かいたいじにいってるのかも?」

 いつから龍巌寺は妖怪退治屋になったのだろうか?
 ここは浄土真宗の歴とした普通のお寺である。
 過去にそういう言い伝えの欠片もない。

「どうするの、アスカちゃん?」

「うう〜ん。あれ?なにかきこえない?」

 聴こえる。
 何かびぃ〜んびんといった音が。
 アスカにはそれが耳なし法一の琵琶の音のように聴こえたのである。

「あれ、なに?」

「む…、わかんない」

 正直に答えたアスカが音のする方へ歩いていこうとする。
 その袖をレイがむんずと掴む。

「だいじょうぶ?アスカちゃん」

「だぁ〜いじょ〜ぶ!」

 胸を張るアスカだったがその言葉の次に出るはずの「ま〜かせなさいっ」は続いてこなかった。
 彼女もやっぱり怖いのである。
 だが、新しくできたばかりの友達の前だ。
 ここで虚勢を張らねばアスカではない。
 彼女は唇をへの字に結ぶと目をくりくりさせながら歩き出した。
 己を奮い立たせているのだ。
 音はよりによって森で陰になっている方から聴こえてくる。
 手と足が一緒に出ずにぎくしゃくとした歩き方でもないのは虚勢も有るが精神力の強さの現われだろう。
 それに怖がってはいるもののアスカの腕をしっかりと掴んでいるだけでちゃんと付いてきているレイもたいしたものだ。
 幼児二人は音のする方向へと歩いていった。
 
 敷石が二人を導く。
 少しガタガタになっている石を踏みながら、二人はとことこと歩く。
 敷石の先にあの音は聴こえている。
 べんべんともびんびんともかつかつとも、何とも表現しにくい音が続いていた。
 テレビで見た『耳なし法一』の琵琶の音はもっと派手だったとアスカは記憶している。
 その音に比べれば今聴こえている音はかなり貧相だし、そもそも曲に聴こえない。
 レイは握っているアスカの手にしっとりと汗が滲んできているのを感じていた。
 最初は自分の汗だと思っていたが、どうも違うような気がする。
 その汗がアスカのものだとわかったとき、レイは彼女の虚勢を軽蔑しただろうか?
 いや、逆だった。
 アスカとの距離が少し近くなったような気がして嬉しくなった。
 彼女も怖いのだ。でも、私のためにがんばってくれている。
 私もがんばらないと、とレイは心の中で大きく頷いた。
 この時がこの二人が生涯を通じての親友になる、はじめの第一歩だったのかもしれない。
 アスカに引っ張られての友達づきあいでなく、レイの方からも歩み寄った。
 本当の意味での友達関係。
 それは二人にとっていいことなのだが、未知の危険に向って歩んでいくのは如何なものだろうか?
 もし、この先に待っているのが本物の化け物だったなら…。

「おはかの…むこう、ね」

「うんっ、むこうね」

 立ち止まった二人の前には墓地が広がっている。
 そんなに大きなものではないが、無縁仏が一角に乱立し、かろうじて区分けしてある中に思い思いの墓碑が立ち並んでいる。
 大人の背の高さでなら墓地の向こうが見えるのだが、幼女の二人には透視能力でもない限り見えはしない。
 二人の目に見えるのは彼女たちを遮るように林立するお墓の山だった。
 龍巌寺で祭の夜店が並ばないのは境内が狭いというのもあるのだ。
 敷地の一角は墓地になっているので、そのすぐそばで騒ぐのも変だ。
 住職としては夜店でにぎわう隣の翡翠神社の様子が妬ましくてならない。
 けっして営利商売ではないのだが、人で賑わう様は羨ましい。
 龍巌寺が人で賑わうのは、お盆に彼岸、そして埋葬。
 お供え物を狙う鴉には毎日不要な賑いを見せられているのだが。
 その龍巌寺にとっては事業存続の種であり、また悩みの種でもある墓地をアスカとレイは眺めている。
 墓地が怖くない子供は少ない。
 当然、二人も躊躇している。
 引き返すなら今だ。
 ただ、こういう場合引き返すには理由が必要である。
 要するに言い訳だ。
 しかしそういう言い訳を思いつくには大人の知恵が必要だ。
 如何せん齢4歳の幼女にそういう小賢しい知恵は思いつきようがない。
 怖いと思っていても何かが起こらないと先にしか進めないのである。
 もしここで犬がわんと吼えたり鴉がかぁと叫んででもくれたら、
 二人ともきゃあと叫んで手に手をとって逃げ出しているはずなのだが、
 間が悪いというか、今はあの音以外はさらさらという葉擦れの音がするだけ。
 アスカは大きく息を吸い込んだ。
 いくわよっと叫ぼうとした時、すぐ隣から小さな声がした。
 
「いくわ」

 アスカは一瞬言葉に詰まった。
 だが、その次に彼女の顔に浮かんだのは笑顔だった。
 
「うん、いこっ」

 レイはこくんと頷いた。
 そして墓碑の間を縫う様にして進んでいく。
 怖いはずだけど、何故か楽しい。
 ゲゲゲの鬼太郎でも歌いたくなるような気分だ。
 舞台の環境は整いすぎているほどだ。
 これであの音が伴奏でもしてくれたら二人で大声を張り上げて歌っていたかもしれない。
 しっかりと手を繋いで二人は歩いていく。
 墓碑の林を抜けたその先は、本物の林が待っていた。
 鬱蒼とはしてはいないが、土塀が視界から隠されてしまっている。
 つまり外の森と中の林がつながっているような感じなのだ。
 その木々の中から音はしている。正体不明の音が。
 道のようになっている土の部分を二人は進んだ。
 音が少しずつ大きくなっていく。
 それにつれて二人の歩みもちょっとずつ遅くなる。

「ああっ、くそっ!」

 音が乱れると同時に男の叫び声が上がった。
 ひっと微かな叫びを上げ足を止める二人。
 
「あれ…おばけ?」

「うぅ〜ん…」

 妖怪や幽霊にしては生々しすぎる嘲りの言葉だった。
 どうも違うような気がする。
 そのアスカの思考を裏づけするように音がじゃかじゃかと鳴ってまた叫び声があがった。

「ああ、もうっ、やっぱり電気が要るぜ!」

 アスカはほっとした。
 どうも幽霊ではなさそうだ。
 そうなると怖がった分だけ腹立たしさが出てくる。
 彼女はぷぅっと頬を膨らまして唇を尖らせた。

「いくわよっ、レイちゃん!」

「うん」

 どうやらレイも行く手にいるのはお化けではないと察したようだ。
 二人の足取りは軽くなった。
 そして木立の中をしばらくいくと、少しだけ広場のようになっている場所に出た。
 3m四方ほどだろうか。
 その真ん中に音源はいた。
 大きな石に腰掛けているのはジーパンにジャンパーを羽織った青年。
 髪の毛がやたら長いのに女と間違えなかったのは声を聞いていたおかげだろう。
 その青年はギターを抱えて首で調子をとりながら指を玄の上に走らせていた。
 アスカたちは広場の入り口に立って青年の様子を眺めている。

「アスカちゃん、あれなに?」

「ギターよ、まちがいないわっ」

「でも、おとがへん。あんなのじゃないもの」

 レイでさえギターの音は知っている。
 幼児番組で歌のお姉さんがギターを弾くところを何度も見ているのだ。
 あんなかりかりべきべきした変な音ではない。
 アスカは大きく頷いた。

「うん、わかった。あれはへたっぴいなのよ」

 アスカの声は大きい。
 運悪く、青年が指を休め、溜息をついたときにその悪罵は飛び出たのだ。
 青年は顔を上げ、悪罵の元を睨みつけた。

「何だと、ガキども。俺がへたっぴいのこんこんちきだとぉ?」

 内容が増えている。
 どう見てもお寺の雰囲気にそぐわない長髪ジーパン男の怒鳴り声にレイは敬意を表して二歩下がった。
 しかし、アスカの方はあろうことか一歩前へ進んだのである。
 その上しっかりとギターを…ということは青年を指差したことになる。

「だって、おうたにきこえないもん。へたっぴいじゃないんなら、ちゃんとひいてよ」

「あのなぁ、これはエレキなんだぜ。電気を使わないとこういう音にしかならないんだ」

 横柄な口調だが、アスカの文句に膝を折って目線を合わせて喋っているところは彼の性格を如実に表しているだろう。

「へぇ、そ〜なの?じゃ、じゃ、なにかひいてよ」

「う、う〜ん、何かって…何がいい?」

 思わずほくそえんでしまう。
 聴衆の存在で嬉しくなってしまうのはミュージシャンの性かもしれない。
 
「う〜ん、おじちゃんのいっちばんすきなのでいい」

「おじ…」

 青年は絶句した。
 俺はまだ22だ!と絶叫しようとしたが思い直す。
 22歳などこの子供たちにとれば充分におじさんだ。
 お兄ちゃんと呼ばれるにはもっと親しくならないといけないだろう。
 もっともこの青年には幼女愛好の趣味はまるでないことは彼の名誉のために予め述べておこう。

「よしっ、いくぞっ」

 アスカとレイはその場に蹲った。
 地面の冷たい冬だけにお尻をぺたんとつけるわけにいかない。
 所謂うんこ座りというものだ。
 その姿勢で青年を見上げる。
 彼は一旦目を瞑り、そしてかっと見開くや否や凄まじい勢いで指を動かした。

「おおおおぉ〜」

 アスカが感嘆の叫びをあげた。
 だが、その言葉もレイの賞賛の眼差しも、青年の意識には入ってこない。
 そこはもう彼だけの世界。
 彼の耳ではギターはアンプに繋がっていた。
 ギュンギュンとエレキギターの音は木立を抜け風を孕み天空へ舞い上がっていく。
 最終コードを弾いた時、彼は笑みを漏らした。完璧、だと。
 ただし、アスカとレイの耳にはアンプは装備されていない。
 だから曲が終わったのは青年がどうだとばかりにニヤリと笑って二人を見下ろしたことでようやくわかった。
 慌てて拍手する二人きりの聴衆。

「すごいすごい!」

「アスカちゃん、わかったの、なんのうたか」

「しんない。ぜんぜんわかんない」

 青年は聴衆の反応に肩を落とした。

「おいおい、チャック・ベリーのジョニー・B・グッドだぜ。知らないのか?」

 青年は無茶を言う。
 アスカとレイは揃って首を傾げたが、お互いの方向に傾けたものだから軽くごつんと頭をぶつけた。

「きゃっ」「いったぁ〜い」

 ぶつけたところを擦りながらアスカが文句を言う。

「アタシたちにもわかるのやってよ」

「わかるのって…じゃ、ビートルズくらいなら…」

 日本語でペラペラ喋ってはいるがどう見ても白人の子供であるアスカに期待して青年は切り出した。

「あ、ビートルってかとくたいがのってるひこ〜きでしょっ!」

 期待は裏切られた。
 青年は力なく手を横に振ると溜息を吐く。
 
「そうだよなぁ、所詮は子供だ」

「んまっ、失礼なっ!アタシはもう4つなのよっ!」

「私はまだ3つ…」

「仕方ないなぁ。俺に弾ける曲で知ってるのあるか?」

 無茶なことを言う。
 だが幼児が相手の場合これは無茶にはならない。
 彼らは文章の最初の“俺に弾ける”という部分を度外視するからだ。

「じゃ、きたろうっ!」

 先ほどの経験から連想したのだろう。
 アスカが間髪をおかずに叫んだ。
 うんうんとレイも頷く。

「キタロウ?当然、シルクロードの方じゃねぇよなぁ…」

 そちらの方が青年は困っていただろう。
 オカリナの旋律をギターで弾くのは一苦労だし、だいたい最初のフレーズしか覚えてない。
 コピーなら任せろ!と日頃大言壮語している青年でも困難な話だ。

「やっぱ、ゲゲゲか?」

 ニヤリと笑った青年にアスカとレイは全力で頷く。

「ロックンローラーに鬼太郎ねぇ。ま、いっか。よしっ、心して聴けよ」

 青年は爪弾いた。
 数秒も経たないうちに幼児二人の顔に喜色が浮かぶ。
 聴き慣れたフレーズに彼女達の小さな身体が小さく上下に動き出す。
 一番を弾き終えた時アスカは居ても立ってもおれずに叫んでしまった。
 
「アスカ、うたうっ!」

「レイもっ!」

「よし、じゃ最初から弾くぞ」

 俺は歌のお兄さんかと心の中で苦笑するが、別に悪い気はしない。
 自分の演奏で他人が喜ぶのは嬉しいものだ。
 お寺の奥の木立の中。
 電気の入ってないエレキギターの伴奏でゲゲゲの鬼太郎の歌が始まった。
 その1番を歌いきって満面の笑みを漏らした二人だったが、2番になってしどろもどろになってしまった。
 青年は苦笑して、そして歌いだした。
 ♪昼はのんびりお散歩だ…♪
 その歌声にアスカとレイの顔が綻ぶ。
 こんなおじさんなのに鬼太郎の歌を知っている。
 それが嬉しかったのだ。
 もっとも青年の世代ならば鬼太郎の歌を知っていても不思議はない。
 そもそもメロディーを弾けるくらいなのだから。
 さて、アスカとレイは彼が歌っている間おとなしく聴いているだけのわけがない。
 アスカは妖怪の真似をしているつもりなのか珍妙な踊りのようなものを始めた。
 それを見よう見まねで身体を動かすレイ。
 踊っていると頭の大きな帽子が邪魔になる。
 レイは手近な枝に帽子を引っ掛けた。
 アスカは去年の夏の盆踊りを思い出していたのかもしれない。
 あの時は鬼太郎の歌が始まってビックリしたやら喜んだやら。
 だからその動きが盆踊りのようになっているのだろう。
 なかなかにシュールな絵である。
 お寺の奥の木立の中で電気無しのエレキを弾く青年の周りをくるくる回りながら幼女二人が妙な踊りをしている。
 しかもその曲は『ゲゲゲの鬼太郎』なのだから。
 
 そして、事件はその28秒後に起きた。

 レイが躓いたのである。
 青年の背後で踊っていて石に躓いたのだ。
 体勢が崩れて前につんのめる。
 思わず目の前のものに支えを求めるのは仕方がなかろう。
 支えにはなった。
 ほんの一瞬だけ。
 その一瞬の支えのおかげでレイは前のめりになって倒れることは免れた。
 うまく身体が入れ替わりぺたんと地面の尻餅をついただけで済んだ。
 
「レイちゃん、だいじょ……げげぇっ!」

 駆け寄ったアスカはレイの手に納まっているものを見て悲鳴を上げた。
 青い目をまん丸にしている友の視線を追って、レイは自分の手元を見る。

「ひっ……!」

 そこにあるのは頭、いや髪の毛の固まりだった。
 黒く、長い、髪の毛がまるで生きているかのようにレイの手の動きにつれて蠢く。
 アスカは恐る恐る、その髪の毛の持ち主を見た。
 彼は…彼の頭はズル剥けになっていた。

「うげえっ!ツルピカせいじんっ!」

 青年はその場にギターを置いてゆっくりと立ち上がった。
 彼は背が高かった。
 その威圧感にアスカも友に並んで尻餅をつく。

「見ぃたぁなぁ〜」

 まるで地獄の底から聞えてくる様な声だった。
 青年は手を握ったり開いたり、幼女たちに見せ付けるようにじわりじわりと迫ってきた。

「ご、ごめんなさい。わざとじゃないの。こけそうになって…」

「レイちゃん、こいつはうちゅ〜じんよっ。はなしはつうじないわよっ!」

「えっ、うちゅ〜じんなの?」

「はっはっはっはぁっ!」

「きゃっ」

 いきなり高笑いされて二人は心底から仰天してしまった。

「よく見破ったな、地球人。私は綺麗な髪の毛を求めて宇宙の彼方からやってきたイブキ星人マヤーだ」

「げげっ、ホントにうちゅ〜じんっ!」

 青年は楽しげに唇を歪めた。

「秘密を知られてはお前達もただではすまさないぞ。その髪の毛をいただこうか」

「ひええぇつ!」

 アスカが頭を抱える。
 レイも隣を見習おうとしたが、その手には黒髪の固まり。

「こ、こ、これ、かえします。だ、だから、ゆるして」

「ダメだぁ〜。二人ともツルッパゲにしてやるぅっ!ぐはははははっ」

 そこが限界だった。
 惣流・アスカ・ラングレー、綾波レイ、二人揃って口を最大限に開いた。
 その口から漏れたのは当然泣き声。
 青い瞳も赤い瞳も溢れてくる涙でもう何も見えない。
 
「お、おい、お前たち…」

「うぇぇぇ〜んっ!」

「こ、こら、泣くな」

 泣くなと言われて泣き止むどころか、泣き声の音量は倍増した。
 祭りの時でも翡翠神社とは違いこの龍巌寺はひっそりとしているのだ。
 その静けさを狙って祭を抜け出した若い二人がこの神社の裏手に出没するほどだ。
 そんな場所だけに二人の泣き声はびんびん響き渡った。

「困ったなぁ。まあ、親父が出ててよかったぜ。こんなとこを見られたら…」

 溜息混じりに禿頭の青年は天を仰いだ。
 その時だった。

「こらっ、何してるの!」

 凛とした女性の声。
 二人の泣き声が止まった。
 青い瞳と赤い瞳がその声の元を探る。
 声の元はクスノキの幹に立っていた。
 赤い袴に白い着物。
 巫女である。
 この人は自分たちの味方。
 アスカは直感した。

「お、おねえさん、たすけてぇ」

「お姉さんだと!俺がおじさんでかっ」

「ぎゃっ!」「ひぃっ」

 禿頭が吼えて幼女たちはまた頭を抱えた。

「馬鹿っ!」

 すたすたすたと巫女は歩く。
 ぱこん!
 禿頭のてっぺんから抜けるような音がした。
 その音に二人はまた顔を上げる。
 ぱこん、ぱこん!
 さらに二発。
 
「脅かしてどうするの、シゲルってロリコンだったの?不潔っ!」

「ば、馬鹿言え!俺にそんな趣味なんかない!」

 巫女姿の娘が腕を伸ばして禿頭をぺたぺたと叩いている。
 涙は乾いて、泣き声も枯れた。
 アスカとレイはただぽかんとその光景を見つめていた。

「だって、こんなに小さくて可愛い子を虐めて歓んでいたじゃない。あ、わかった。ロリコンサド?大不潔!」

「お、おい」

「おね〜さん、えっと…」

 ようやく声をかけたアスカに巫女姿の娘はにっこりと微笑んだ。

「なぁに?」

「うちゅ〜じんじゃないの?そのツルピカせいじん」

「うふっ、残念ながら違うの。こいつはただの地球人よ。変態かもしれないけどね」

「で、でも、イブキせいじんマヤってじぶんのこと…」

 ぱこぱこぱこぱこん!
 往復ビンタが頭のてっぺんに炸裂した。
 
「この!人の名前をなんてものに使うのよ!この破戒坊主!」

「い、いた、痛いって!勘弁してくれよ、つい面白くて」

「面白かったの?ふ〜ん、いたいけな幼児を虐めて面白かったんだ。やっぱり、ロリコンサドじゃない!」

「た、叩くなって!俺の頭は木魚か。おい、お前たち、助けてくれよ」

 アスカとレイは顔を見合わせた。
 どうやら宇宙人ではなさそうな感じである。
 
「助けなくてもいいわよ、こんな変態坊主には神罰を食らわしてやる!」

 ショートヘアの巫女はまた両手を伸ばしてぱこぱこと頭を叩く。
 音は派手だがそれほど痛そうには見えない。
 アスカはよっこらしょと立ち上がった。
 それを見てレイもお尻を上げる。
 
「おねえさんはだれ?」

「ん?私は伊吹マヤ。宇宙人じゃないわよ。隣の翡翠神社の娘」

 禿頭を叩くのをやめて、巫女は爽やかに微笑んだ。
 その笑顔をまじまじと見て、ようやくアスカは思い出した。
 お祭の日や初詣の日に社務所で見た笑顔だ。
 綺麗なお姉さんを見てあんな格好をしてみたいと指さし、母親と曽祖父を困らせた記憶がある。
 
「アタシ、しってる!じんじゃのきれ〜なおね〜さんよねっ」

「うふ、ありがとう」

 子供に綺麗だと言われると嬉しいものだ。
 初対面になるレイの方も憧憬を込めた目で見ている。

「だからどうしてコイツがお姉さんで俺がおじさんなんだよ」

「だって、ハゲてるじゃないっ。おじ〜さんよっ!」

「あのなぁ、これは禿てるんじゃなくて、剃ってるの。仕事で仕方なくツルツルにしてるんだよっ!」

 吐き捨てるように禿頭が言う。

「おしごと?なに、それ?」

 狐につままれたような表情で禿頭を見つめるレイにマヤはにっこり笑った。

「あのね、コイツはこれでもお坊さまなの。だから頭がツルツルなのよ」

「げっ、おぼ〜さんっ!」

「ああ、その坊主ってヤツだ。くそっ、どうして俺がクソ坊主なんかに」

 いらだたしげに言うと、ジーパン姿の坊様は元の場所に腰を下ろす。

「でも、おぼ〜さんはこんなふくきてないじゃない」

「うん、きものよね」

「だから言ってるでしょ、いつも。どうしてわざわざ着替えるのよ」

「そりゃあお前、ロック弾くのに僧装束じゃ格好つかないじゃないかよ」

「ロックはハートなんでしょ。馬鹿みたい。私だってこのままの格好で来てるのに」

 ぽんぽんと赤袴を叩くマヤ。

「う、う〜ん、坊主の姿でロックするのはウケ狙ってるみたいでなぁ」

「わざわざ鬘まで買ってきてねぇ。頭を剃る時の貴方の覚悟は美しかったのになぁ」

「ふんっ、俺の髪の毛持って帰ったの誰だっけか。遺髪じゃあるまいし」

「うるさいわね。思い出よ、思い出っ!」

 アスカとレイはそっちのけである。
 二人でぽんぽんと言い争いを始めてしまった。

「ねぇ、アスカちゃん、これけんか?」

「ちがうわっ!だって、たのしそ〜じゃない」

 なるほど、アスカのような子供の目にも二人は楽しげである。
 その時、アスカは思い出した。
 何のためにこのお寺にやってきたのかを。
 鬼太郎を歌い踊るためでも、坊主に脅されて泣くためでもない。
 そのお坊さまに用があったのではないか。

「ちょっと、ねぇっ!」

 アスカは叫んだ。
 そうでもしないと卓球のラリーのように言葉を応酬している二人の間に入りこめやしない。
 自分たちを見物している幼女の存在を思い出したマヤは頬を赤らめた。

「なぁに?」

「きれ〜なおね〜さんのほうじゃなくて、ぼ〜さんのほう!」

「俺か?」

「うん、ぼ〜さんは、とくがたかい?」

「アスカちゃん、とくがたかいってなに?」

「しんない」

 きっぱりとアスカは言った。
 怪談話で徳の高いお坊さまじゃないと幽霊や妖怪を退治できないと聞いていたからだ。

「おお、徳か。俺なら高いぞ。ばっちりだぜ」

「それはどうだか?ねぇ、で、徳の高いお坊さまに何の用なの?」

 アスカは説明した。
 この騒動ですっかり自分の祟りについて忘れていたレイはおとなしく控えている。
 すべてを訊き終えたマヤはなぁんだと微笑んだ。

「それならね、うちの神社の方がいいんじゃない?シゲルなんて全然ダメよ」

「おいっ、つまらないこと言うな。この子達は真剣なんだからよ」

「あ、ごめん」

 青葉シゲルは膝を曲げた。
 そして、レイとアスカの頭に掌を乗せると、いかにも坊さまらしい口調で話しかけた。

「そういうことなら、話は簡単だ。お祓いよりももっと効き目のあることを教えてやろう。
 素直におばあさんに謝るんだよ。それで万事解決だ」

「ほんとっ!」「それで、いいの?」

「ああ、祟りなんか起きるものか。正直に話してみな。まあ、叱られるだろうが祟りよりはマシだろう?」

「はい」

 レイは頷いた。

「アスカもいっしょにあやまってあげるっ。おうちにかえったら、ごめんなさいしよっ」

「うん。ありがとう…」

 嬉しげなレイの表情にアスカもにっこりと笑う。

「へぇ、まるで本物のお坊様みたいね」

「おい、俺は本物だろ」

「その割にはいつも留守番みたいだけど?おじさんばかりよね、お経上げに行くのは」

「さあな、ま、俺がお経上げても有難いって思わないんだろ。この町のじいさんばあさん達は」

「シゲルの口が悪いからでしょう。世間話もできないといけないもの」

「俺の何処が口が悪いんだ?なぁ、お前たちもそう思うだろ?」

 子供は素直だ。
 アスカは素早く返事した。

「ぼ〜さんのくちはわるい」

「うん、いいひとだけどわるい」

 レイは持ち上げて下ろした。
 思わず苦笑するシゲルだった。
 
「ああ、もういいよ。確かに俺の口は悪い。でも、そのおかげでこうやって逢えるんじゃないか、な」

 そう、彼と彼女はロミオとジュリエットだったのだ。
 龍巌寺の一人息子の青葉シゲル。
 その同級生で翡翠神社の一人娘である伊吹マヤ。
 さてその二人はいつ恋に落ちたのだろうか?
 二人の共通の友人は語る。
 高校時代ではないことは確かだ。シゲルは自分と同じ男子校。マヤさんは隣町の女子高だった。
 大学はシゲルは京都でマヤさんは東京。
 じゃ、中学かと言えばそれは絶対にない。
 あの頃、シゲルは音楽の先生に純愛を捧げていた。完璧に空振りしていたけど。
 結局わからないのである。
 実は本人同士もそのあたりが不明なのだ。
 ある夏の夜、二人は突然キスしてしまった。
 勢いというか自然にというか。
 おそらくその現場の唯一の目撃者である伊吹家の飼い犬シロも驚いたことだろう。
 男嫌いで通っていた飼い主がうっとりとした顔で口喧嘩の宿敵だった男に抱かれていたのだから。
 シロは吼えた。飼い主を護ろうと。
 その代償は飼い主にぽかんと頭を小突かれただけ。
 人間という生き物はわからない。
 その夜、シロは悟りを啓いた。
 人の恋路は邪魔すまい。たとえどんなに理不尽な恋であっても。

 きんこんかんこぉん。

 その時、近くの小学校のチャイムが鳴った。

「やだっ。時間切れ!」

「なんだもうそんな時間か。じゃ親父様もそろそろご帰還かな?」

「うふっ、じゃ帰るね。えっと、君たちは…」

「アタシ、アスカっ!」

 アスカは“あっか”としか聞こえないいつもの名乗りを上げる。

「こっちはレイちゃんっ!アタシのむかしからのおともだちっ」

 ちょこんと頭を下げるレイ。

「あ、そっか。マコちゃんがいつも話してるあっかちゃんよね、あなた」

「おっ、アレか。マコトがべた惚れしてるオン…ぐえっ!」

 鳩尾に肘が入った。
 マコトがぞっこん惚れこんでいる惣流キョウコの娘を前にして迂闊なことは言えやしない。
 げふげふ苦しんでいる恋人をマヤは素知らぬ顔で放置した。

「マコちゃんってだれ?アスカ、しんない」

「うん?お巡りさんよ。メガネかけた」

「あっ、もしかしてひゅ〜がじゅんさ?」

 敬礼して見せるアスカ。
 それを見て自分も真似をするレイ。

「そうそう、日向マコト巡査。私たちの小学校からの幼馴染よ」

「おさななじみっておともだち?」

「ええ、そうよ。あなたたちみたいな」

 優しい眼差しで見られた二人はどちらからともなく手を握る。

「さてと、じゃ私は帰るけど…貴方たちはどうする?」

 禿頭の坊主と凛々しい巫女姿の美人。
 選択は早かった。

「ばいばぁ〜い!ぼ〜さん!」

「さよなら」

 シゲルに向って合掌するレイ。
 彼は天を仰いだ。
 俺はご本尊かと。合掌するのはこっちの方なのに…。
 手持ち無沙汰になった彼は合掌を返すことはせず、
 おもむろにギターを拾い上げるとニヤリと笑って爪弾くのだった。

「あっ、カランコロンのうたっ!」

 ゲゲゲの鬼太郎の副主題歌に送られて三人は歩き出した。
 真ん中で歩くマヤにはどうして鬼太郎なのかという疑問が付き纏った。
 ただ、両側の二人の幼女が楽しげに歌っているのが微笑ましくてたまらない。
 それに口の悪い恋人が意外と子供と普通にどころか親しげに喋る姿が新鮮だった。
 そして、嬉しかった。
 いつか未来にシゲルと自分の子供が…。
 
 それは無理か。

 マヤはにこりと笑った。
 そして、一緒に歌う。

「あっ、ちがうよ、おね〜さん。そこはたったえ〜るむしたち〜だよっ」

「あは、ごめんね」

「いいの、たのしいから」

 レイの笑顔には曇りはなかった。
 祟りはない。
 幽霊になる恐れはない。
 幼馴染という友達もできた。
 
 お外に出てよかった。

 アスカに振り回されたということも忘れてレイは歩いた。
 カランコロンの歌を口ずさみながら。
 そして枝に掛けられたレイの大きな帽子は完全に忘れ去られていた。

 

 
あっかちゃん、ずんずん 第四巻 「あっかちゃん、友を震え上がらせるの巻」 −おしまい−



















(あとがき)

 第四巻です。
 シゲルとマヤのカップルを紹介するだけの内容でこんなに長くなってしまい申し訳ございません。
 書いていてマヤが関西弁を喋りそうになってしまい、己を制御する意味で神戸の女子大に進学していた設定を
 東京に変更しました。長沢美樹さんに関西弁を喋らせると青山鶴子さん(知ってる?)になってしまいそうで。
 次回もまだお散歩初日が続きます。シンジが姿を見せるのはいったいいつになるのでしょうか?(大汗)
 10巻目くらいでしょうか。と、彼の登場は。

 2005.07.08 ジュン







ジュンさんからあっかちゃん第四巻を頂きました。


シゲル・マヤカップル登場です。
既出の日向巡査をくわえ、これからこの恋愛トライアングルをどうあっかちゃんにかき回されるのでしょうか(笑)

幼少の頃、押入の中には冒険の世界が広がっていたり、
怖い話にTVで知った呪文を大声で唱えながらトイレに行ったり、
または本気で妖怪ポストに手紙を出したり。

ウルトラマンもいました。鬼太郎もいました。
魔法が使え光子力だって存在していたあの頃。
彼らが世界の平和を守っていた時代。
子供たちにとっても一番不思議で一番素晴らしい魅力溢れる世界であったと思います。

同時に、トラウマの大半もそのころ形成されるものでして。
余談ですがわたしは鬼太郎の「牛鬼」の回は今でも怖い思い出です(笑)

閑話休題。

素晴らしいペースで投稿してくださるジュンさんにメールをお願いします。





(2005/7/10掲載)


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