がらがらがら……。
 
「あっかちゃん、もうそろそろいいんじゃないの?」

「も、もうちょっとだけっ!」

 まるで抱きかかえるようにしておみくじの箱を揺らすアスカ。
 傍らで見守っているマヤは木製の箱を落としはしないかと不安でたまらない。
 もう一人、アスカの隣に立っているレイは目を一杯に見開いてアスカの動きを見ていた。

 がらがらがら……。

「ここよっ」

 と、気合は素晴らしかったが、なにぶん四歳児の体である。
 うんしょと箱の上下を入れ替えている間にかなりくじの木が動いてしまった。
 マヤは笑っちゃいけないとお腹に力を入れてアスカを待った。

「えへへっ、でてきたでてきたっ」

 おみくじの箱からにょきっと白木の棒が顔を覗かせている。
 アスカは満面の笑みでその棒を引き抜く。
 そして、平らに削られた場所に書かれた筆文字をぐっと睨みつけた。

「んっと、んぅ〜んと」

 いくら彼女が自称天才でも漢数字はどんなに睨みつけようが読めはしない。

「あっかちゃん、弐番よ、それ」

「に?にって、2?」

 文字に書かれているわけではないが、マヤにはアスカの言わんとしていることがなんとなくわかった。
 
「うん、いち、に、さんの“に”よ」

「やったっ!2ばん、2ばんっ」

「よかったね」

 どうして2番がそんなに嬉しいのかレイにはわからなかったが、ここは親友候補に敬意を表して小さな手をぱちぱちと叩く。

「えへっ、アタシ、2ばんがすきなのっ」

 ニンマリと笑うとアスカは長い白木の棒をポケットになんとか入れようとする。
 それを見ていささか慌てるマヤ。
 
「ああっと、それじゃないのよ、あっかちゃん」

「へ?」

 怪訝な顔で巫女を見上げるアスカ。
 おみくじをしないかと誘ったのはマヤだったが、
 二つ返事でのってきた幼女がおみくじの意味を知っていると思い込んでいたのである。
 もっともいつも自信満々のアスカの表情に騙されたと言ってもいいかもしれないが。
 それからマヤはようやくおみくじのことを説明した。
 するとどうだろう。
 さっきよりもなおさらに喜色がアスカとレイの顔に浮かんだ。
 面白い、と。
 こういうギャンブル的な仕様におみくじを脚色したのはいつの時代のどこの誰だろうか。
 最初はもっと簡単なものに違いなかったであろうから。
 番号を引いてその番号に合った御籤を渡す。
 その段取りがおみくじを面白くさせているのだろう。

「弐番は、これよ。はいどうぞ」

 さすがに神社の家に生まれずっと巫女の仕事をしてきただけのことはある。
 マヤの仕草はやはり趣がある。
 もっともアスカにはそれを楽しむゆとりなど一秒もなかった。
 恭しく差し出された弐番の御籤にまず顔をぐっと近づける。

「えっと…これ、なんだっけ…あ、そうそう、あばれんぼ〜しょ〜ぐんのよしむねの“よし”よ、これっ」

 えへんと胸を張るアスカに、レイは素直に凄いと思い、マヤは変わった子だと違った意味で嘆息した。
 普通なら読めても中吉の“中”の方だろう。
 それが“吉”を読むのだから面白い。

「ふふ、これはね、“よし”なんだけど、“きち”って読むのよ」

「ええっ、そ〜なのぉ」

 不満げに頬を膨らませるアスカ。
 だが、字の意味は似たようなものだと言われてすぐに機嫌は治まる。

「じゃ、じゃ、にばんめにいいってこと?」

「う〜ん、まあそういうことかな?」

 大吉の次だからそう言ってもいいだろう。
 そんな質問をされたことがなかったので、マヤは少しまごつきながらもそう答えた。
 そしておみくじの文面の説明に入る。
 正直言って、これを説明させられるのはマヤにとってあまり楽しいことではない。
 いくら巫女姿が似合っていてもやはり面倒くさいものは面倒くさいのだ。
 それでも今日は違った。
 アスカたちの反応が面白いのである。

「待ち人来たるんだって、よかったね、あっかちゃん」

 当然待ち人の意味がわからないアスカは首を捻るだけ。
 マヤは説明した。
 わかりやすく。
 
「そっか、けっこんするひとのことなのねっ」

 うんうんと頷くアスカの隣でへぇ〜と唇を尖らせるレイ。
 マヤはシゲルとのことがあるからなのだろう。
 つい恋人ということではなく、結婚相手という最終的なところにまで話を広げてしまった。
 
「アスカちゃん、けっこんするの?」

「う、う〜ん、するのかな?」

 アスカは中吉の御籤を睨みつけた。
 漢字は殆ど読めないから、マヤに教えてもらった待ち人の項目のところをわかる部分で読み拾う。

「えっと…、まちびと、の…より…る。ぜんぜんわかんないっ」

「それはね、東の方角より来るって書いてあるのよ」

「ひがしってどっち?」

「うぅ〜んっとあっちかな?」

 マヤはわかりきっている方角をできるだけ素っ気無く指さした。
 何しろこのおみくじの文面を創作したのは主にマヤなのだから。

「あっちは…はげぼ〜ずのおてらだねっ!」

 アスカは一発で答を引き当てた。
 東の方角にいる自分の待ち人のことをマヤは書いたのだ。
 
「じゃ、アスカちゃんのけっこんあいてははげぼうず?」

「違うわよっ」

 その語気の強さに幼女二人は赤袴のマヤを見上げた。
 そのつぶらな4つの瞳にマヤは顔を赤くする。
 
「どうしてちがうの?はげぼうずはあっち」

 それは彼は私の恋人だから…とは言えない。
 親の目を忍ぶ仲なのだ。
 子供に口止めすることが愚かな真似だとはマヤにもわかる。
 だからこそここは言いくるめなければならない。

「来る、って書いてあるでしょう。
 ということは、その人はずぅ〜っと東の方角からやってくるのよ」

「ひがしってとうきょう?」

「そう、東京っ!」

 マヤは決め付けてしまった。
 だがこの文面を創作したのだからこれはきっと神意ということだと強引に自分を納得させる。
 
「とうきょうってひがしなの?」

「うん、わたし、とうきょうからきたもの」

「じゃ、アタシ、レイちゃんとけっこんするの?」

「けっこんしきはきょうかいがいいの」

「だ、ダメよっ。アナタたち、女の子同士じゃないっ」

 禁断の恋モードに入りそうな幼女二人の様子に慌てて口を出すマヤ。
 実は中学高校時代と男子にはまったく興味のない彼女だった。
 高校の頃には町内でも有名な美女二人組の片割れに憧れていた。
 凛とした風情で男の噂はなく、ましてや男に笑みひとつ与えない。
 あんなお姉さまによしよしと可愛がってもらいたいと真剣に思っていたものだ。
 そんな彼女をからかう幼馴染に真剣に恋をするなど、
 当時のマヤには予想もできなかっただろうし、もしそうなると教えられても
 眉間に皺を寄せあからさまに不快な顔になっていたことだろう。
 口を聞くのも嫌な相手だったから。
 今はその相手と口づけるとときめきを覚えているのに。
 人生は不可解にして不思議なものである。

「おんなのこど〜しはだめなの?」

「だめ?」

 いささか恨めしげに見えるレイの瞳にほんの少し悪いなぁと思ってしまうのは
 昔の自分がそこに見えたからか。
 だが、それを正さねばならないと背筋がすっと伸びたのは、シゲルと恋に落ちているからだろう。
 現金なものだ。

「そうか、おとこのひととしかけっこんできないのか。ふぅ〜ん」
 
「そうよ、だからこのおみくじによると…ほら、結婚は待ち人とするが良いって書かれてるでしょ」

 マヤが指差すおみくじの文面を読めもしないのに覗き込む二人。

「じゃ、アスカはそのひととけっこんするの?」

「え、えっとぉ…」

 そうじゃないとは言い難い。
 書いたのが自分であっても、翡翠神社の神秘性が薄れるのは良くないような気がする。
 ここは断言するしかないと、マヤは即断した。

「神様の意思に従うか逆らうか、それはあなた次第よ」

「アタシ、次第?」

「うん。もしかしたら神様の意志が酷いものかもしれないでしょう?例えば、これ」

 マヤはアスカの手に持たれているおみくじを指差した。
 その指先に指し示された文を彼女は読む。

「失せ物出ず。失くしちゃったものは出てこないってことが書かれてるの。
 だけど、あっかちゃん?」

 きょとんとした顔を上げるアスカにマヤは微笑んだ。

「もし、あっかちゃんの大切にしているものを失くしたら、おみくじに出てこないって書かれているからってあきらめちゃう?」

 その問いにアスカは馬鹿らしいという表情になった。

「あきらめないもんっ。ぜったいにさがすもんっ!」

 腰に手をやって声高々に宣言するアスカにマヤは相好を崩した。

「ねっ、レイちゃん」

「う、うん」

 アスカに比べてレイの方はそこまで自分に自信を持っていないようだ。
 道すがら聴いた二人の出逢いがごく最近のことと知っているマヤは少しずつレイの性格も変わっていくのではないかと思った。
 
「とにかくおみくじっていうのはそういうものなの。
 こんな風になるけど自分はどうすればいいかを決めるための道しるべって言うか……わかる?」

 少し難しすぎたかもしれないと、マヤは内心苦笑しながら二人を窺う。
 レイは少し首を捻り、アスカは唇を尖らせた。
 
「うぅ〜ん、じゃアタシはだれとけっこんするの?」

「おみくじによると東から来る人ってことになってるけどね」

「アスカちゃん、あいつだけはダメよ」

 いつになく強い調子でレイが言う。
 アスカの肩に手を置いてじっと赤い瞳で見据える。

「ぜったいにダメ」

「アイツってだれ?」

 当然の質問だった。
 アスカの問いにレイは明らかに不愉快な顔をする。

「わたしのいとこ。シンジっていうの。なきむし」

「シンジ?」

 初めて耳にしたその名前。
 いずれ毎日のようにその名前を口にするとは思いもよらず、
 この時のアスカはただ鸚鵡返しに彼の名前を呟いた。

「へぇ、シンジ君ってやっぱり東京に住んでいるの?」

 嫌そうな顔で頷くレイ。
 いつもは表情に乏しいだけによほどその子の事が嫌いなのだろうとマヤは推察した。

「まあ、東京に住んでいる人はその子だけじゃないからね。ふふふ」



 年齢を重ねるごとに世界が広がっていく。
 自分の場合もそうだった。
 一番世界が広がったのは東京の短大に行っていた頃だった。
 レディースのワンルームマンションに住み、近所の本屋であるバイトをし、
 友人に誘われて合コンに行ったり、そこで知り合った男子学生とデートもした。
 ところが何かが足りなかったのだ。
 毎日が楽しくはあったが、どこか空虚な自分をはっきりと認めていた。
 それが爆発したのが2回生の夏。
 花火大会に誘われた男に無理矢理唇を奪われた時である。
 全力で彼の腕から逃げ出したマヤは一目散にマンションに帰って歯茎から血が出るほど強く歯磨きをし、
 唇のまわりを重点的に石鹸でごしごしと洗い、そしてバスルームで頭からシャワーを浴び続けた。
 扉の向こうで携帯電話が何度も鳴っていたが、もちろん出る気などさらさらない。
 あの男の声も、当然顔も二度と見たくない。
 アイツに触られた肩や手首などをひりひりするくらい洗う。
 少し落ち着いたとき、鏡に映った全身びしょ濡れの自分に彼女は毒づいた。
 馬鹿だ、阿呆だ、こんこんちきだと。
 ただ涙は出てなかったことが自分でも不思議だった。
 その涙が溢れ出たのが、数日後。
 盆に帰郷した時である。
 翡翠神社の石段を上がる前に、無意識に足は龍巌寺に向いていた。
 山門を恐る恐るくぐると、首を伸ばして本堂の奥を窺う。
 中からは煩いばかりの静寂が漂ってくる。
 静寂の嵐の中で彼女が耐えているうちに、微かにカリカリという音が聴こえてきた。
 その音源は不届きにも墓地の外れにある井戸の縁に腰掛けてギターを弾いていた。
 数秒後、彼はギターの代わりに幼馴染の華奢なようで案外重みのある身体を抱きしめていることになった。
 どうしてこういう事態になったのかまったくわからない。
 彼女はシゲルの胸をバンバンと叩きながらボロボロと泣いていた。
 キスしちゃった。ファーストキスだったのに、無理矢理された。あんな軽薄な男にされてしまった。
 鼻水を出すほど必死になってシゲルに訴えているうちに、いつの間にか彼にキスされている自分に気づく。
 マヤは息を飲んで、慌ててシゲルから離れると平手で一発。
 そして次の瞬間、自分からキスをしていた。
 今ではシゲルはその恋人をからかっている。
 俺のファーストキスは何故か塩味だったと。
 そこで止めて置けばいいのだが、その後にあれはもしかすると鼻水の味か?と付け加えるものだから、
 マヤの逆鱗に触れてしまうのである。
 さて話はまた戻り、そのマヤのセカンドキス、シゲルのファーストキスのことである。
 あれほど気持ち悪かったはずのキスを恍惚たる気分で終えたマヤはその相手をようやく落ち着いて見ることができた。
 彼女が飛びついたショックでシゲルが被っていた野球帽は井戸の傍らに落ち、彼の地肌が太陽の元に曝け出されていたのである。
 我慢できたのは3秒ほどもなかった。
 彼女は涙を流すほど大笑いし、彼のつるつるの坊主頭をぱこぱこと叩いたのである。
 隣の家の住民で同級生だけに京都の仏教関係の大学に行ったことはよく知っていた。
 いずれ一人息子の彼が父親の跡を継ぐことはわかってはいたが、
 まさか2回生の今、頭を丸めているとは思いもしなかったのである。
 横隔膜をひくひくさせながらもようやく落ち着いて、年季の入った庫裏の裏にある横倒しになった石柱に並んで座る。
 シゲルの話では帰省してきたその夜に父親に前後不覚になるほど飲まされたそうだ。
 その翌朝、彼の頭はつるつるになっていた。
 話を聞いてマヤはまた涙を流す。
 今度は笑いすぎて流した涙だ。
 きっと彼の両親が二人がかりで剃ったに違いない。
 シゲルはふて腐れた顔で七条大宮に戻ったらまた伸ばしてやると宣言した。
 事実、彼の髪は盆と正月の度に両親によって綺麗に剃り上げられ、
 大学に戻れば元のロン毛に戻すために無駄な努力をするという年間行事が続いた。
 剃られるのがイヤなら帰らなきゃいいのにという恋人にシゲルは鼻の穴を広げて息巻いた。
 誰の為に帰って来るんだと思ってんだ。
 マヤは幸福だった。
 自分の幸福は広がった世界にはなく、結局一番狭い世界にあったのだ。
 
 ただ、その幸福は二人の間だけのこと。
 お互いの家の境遇を考えると結ばれるはずのない二人なのだ。
 お寺の一人息子と神社の一人娘。
 いずれ娘には婿養子を取る。
 両親が男の子を産むことを諦めた時からマヤはそう言われてきた。
 となれば、愛するシゲルは両親の望む相手とはまるで違ってしまう。
 そもそも、龍巌寺の和尚と翡翠神社の宮司は巷でも有名なほど仲が悪いのだ。
 顔を合わすと喧嘩ばかりで、そんな家同士の二人が許されるわけがない。
 そこでロミオとジュリエットなのだ。
 唐突にお互いへの恋心を知ってしまった二人はそれをひた隠しにした。
 現代の、しかも田舎町のロミオとジュリエットは駆け落ちや心中まで考えることができなかった。
 そこには親友である日向巡査の存在も大きかったのかもしれない。
 あの真面目な顔で、自分には何もできないが馬鹿なことは考えるなと説教をされると寧ろ笑いがこみ上げてくる。
 その上、いつの間にか話題はマコトの惣流キョウコへの賛美と叶わぬ恋への苦悩に摩り替わってしまうのだ。
 慰められていたのはこっちなのにと町内のロミオとジュリエットは苦笑しながらも二人の緩衝材を勇気付けるのだった。
 それがこの2年ほど繰り返されてきた。
 ところが不思議なことに嫁取り婿迎えの話は出てこない。
 もっとも現職の住職と宮司が矍鑠たるもので代替わりなど考えていないのであろうが。
 それをいいことに二人は逢瀬を楽しんでいた。
 子供の時に作っていた近道を大人でも行き来できるように整備した。
 非番の日にその作業に駆り出されたマコトはいい面の皮だっただろう。
 どうして俺がこんなことをとぶつぶつ言いながらも三人のうちで一番張り切って身体を動かしていた。
 どうやら幼馴染の喧嘩ばかりしていた二人がこんな仲になったことが嬉しかったのだ。
 それと子持ちの金髪美人への夢でしかあり得ない恋の成就に対する代替行為だったのかもしれない。
 その時作った獣道は一日に何度も使われているので月に一度生え草を抜いたり切ったりするだけで済んだ。
 もっとも使えるのは住職が外出し、宮司が仕事で手が離せないというタイミングが合った時しかなかったのだが。
 それでも二人は携帯電話を使い寸暇を惜しんで逢瀬を楽しんだ。
 会っても馬鹿話をし、キスをするだけなのだが、それでも二人には貴重な時間だった。
 因みにすっかり大人である二人はキス以上の関係にはなっているのだが、さすがにその時間には差し控えざるを得ない。
 何しろマヤは日中は巫女姿なのである。
 背徳的な行為を楽しむには二人は真っ当な神経をしていた。
 そうでなければ、とうに親に逆らい駆け落ちくらいしでかしていただろう。 
 年に何度か大学の友人に会うという口実で2泊3日の旅行をするだけが精一杯だった。
 その時宿帳に『妻・青葉マヤ』とシゲルに書いてもらうと、マヤの心は歓喜に震えた。
 筆者がその旅行について書けるのはそこまで。
 あとは知らない。
 


 マヤは二人の幼女に微笑んだ。
 
「さあ、次はレイちゃんの番ね」

 おみくじの箱を渡されたレイの顔がにこりと笑う。
 
「いけいけっ、レイちゃん!」

 アスカの応援を背にレイはからからと軽く箱を揺すり、あっさりと棒を出した。
 その二人の違いにマヤはにこにこと微笑んでしまう。
 派手な動きのアスカに無駄な動きのないレイ。
 案外いいコンビになるかもしれないと、出来立ての友達同士にエールを送りたくなった。

「これ…」

 レイの手に握られている白木の棒には「八拾八番」と書かれていた。
 内心、マヤはわっと驚く。
 翡翠神社のおみくじの中で最高の番号だ。
 末広がりの数字だからと八拾八番にそれを当てはめたのは他ならぬマヤ自身。
 実はマヤもテストと称して何百度も箱を振っているのだが一度もこれを引き当てたことがないのである。
 彼女はことさらに表情を引き締めて恭しく御籤をレイに差し出した。

「わっ、よし…じゃない、レイちゃんもきちっ!」

 隣から覗き込んだアスカが大声をあげた。

「わたし、きち?」

「ええ、しかも大吉よ」

「だい、きち?」

「なにそれ?」

「おみくじの中で一番いいのよ。ほら、凄いわよ」

 マヤは文面を朗読した。
 確かに凄い。
 何でも叶うのだ。
 願い事は必ず叶う。
 問題はすぐに解決する。
 失せ物はすぐに出る。
 金運はよい。
 健康は優れる。
 結婚は幸せな相手と出逢う。
 待ち人は生涯の友と出逢う。
 
 そこまで聞いたとき、レイははっと口をあけた。
 生涯の友と出逢う。
 これこそアスカのことではないか。
 レイは何度もうんうんと頷いた。

「レイちゃん、すっごぉ〜いっ!」

「本当に凄いわね、中々出ないのよ、これ」

 二人に褒められてレイはぽっと頬を染めた。
 そして、御籤を胸に押し抱く。



 マヤにお団子とお茶をご馳走してもらった後、二人は翡翠神社の石段をゆっくりと降りていた。
 さすがに4歳児の足の長さでは駆け下りたりはできない。
 二人で手を繋いでえっちらおっちらと一段ずつ足を進める。

「ねぇ、ど〜してしゃべったらダメなのかなぁ。おね〜さんとはげぼ〜ずのこと」

「ひみつだから」

「ど〜してひみつなのかなぁ」

「わからない。でも、いっちゃダメなの」

 レイはきっぱりと言う。
 大吉の効果は大きかった。
 何しろ自分とアスカのことを書いてあったのである。
 神様に選ばれた二人なのだ。
 そんなおみくじを与えてくれた神社のお姉さんのお願いは絶対に聞かねばならない。
 単純といえば単純だが、レイはこうと決めれば梃子でも動かない性分だった。

「ママにもおはなししちゃいけないのかなぁ」

「ダメっ」

 赤い瞳が睨む。
 少し首を竦めたアスカは舌を出す。

「わかったわよぉ、いわないってば」

「うん」

 すぐに笑顔に戻るレイ。
 アスカも別にそのことに依存はない。
 何故話してはいけないのかが気になっただけなのだ。
 
「ねっ、つぎはおじぞ〜さまんとこいこっ」

「うん」

 お寺に神社、そしてお地蔵様と随分年寄りくさい道行だが、二人にとっては楽しいことこの上ない。
 特にレイにとってはすべてが未知の世界なのだ。
 角を曲がるごとに広がる新世界に胸がわくわくする。
 レイが足を止めた。
  
「アスカちゃん」

「なぁにっ」

「ずっとおともだち…」

「はん、とーぜんじゃない!よ〜ちえんにいってもレイちゃんとはおともだちよっ」

「ようち、えん…?」

「うん、よ〜ちえん。4がつからよ〜ちえんだよっ」

「わたし…」

 おばあさんが春になれば幼稚園に行かないといけないよと言っていた。
 外に出るのが嫌いなレイはその度に泣き出しそうな顔で祖母から目を逸らしていた。
 そのことをレイは思い出しはしたが、どこの幼稚園かはわからない。
 因みにアスカも自分がどこの幼稚園に行くのかまったく知らなかった。
 泣き出しそうなレイにアスカは「大丈夫!」を繰り返した。
 根拠はまったくなかったが、そう言う外なかったのである。
 そしてアスカは遂におみくじを持ち出した。

「ほら、おみくじにもかいてあったじゃない。
 ねがいごとがかなうって」

「ねがいごと?おねがいすればいいの?」

「そうよ。いっしょのよ〜ちえんにいけますよ〜にって」

「おねがいしたら、いける?」

「うん、ぜったいっ」

 安請け合いは子供の特権かもしれない。
 未来を信じる心。
 大人になるにつれてその心は薄れていくものだが、
 子供であるこの二人には未来はバラ色である。
 
「わかった。おねがいしてみる」

「うん、それがいいよっ」

 レイは振り返ると神社に向って手を合わせる。
 おみくじを引く前に本殿でお参りをしたからやり方は覚えている。
 アスカもぽんぽんと拍手を打ってレイの願いが叶う様に祈る。
 祈りながら、あ、このお願いは自分の願いでもあるんだと気づいてにやっと笑ってしまった。
 自分もレイと同じ幼稚園に行きたい。
 その願いが叶いますように。
 石段の途中で手を合わせている小さな二人の背中を見て、通りすがったおばあさんがにんまりと笑った。
 そして、自分も買い物袋を地面に置き翡翠神社に向って手を合わせた。
 あの子達のお願いが叶いますように、と。



 15分後、二人は路地の奥の方にある地蔵堂の前に立っていた。
 当然、ここでもお祈り。
 二人が同じ幼稚園に入れますように。
 気になるのならさっさと保護者に聞いてみればいい。
 小さな子供にはそんな知恵が回る筈がない。
 したがってこのお地蔵様の前でも二人は一心にお参りをしている。
 その姿は通りかかる人々の微笑を誘わずにはいられない。
 挙句の果てにはアスカと顔見知りのおじいさんが二人に100円ずつお小遣いをくれた。
 アスカはニコニコと、レイは微笑んで、お礼を言う。
 
「きんうん、あったねっ」

「うん、すごい」

 きらきら銀色に光る100円玉を掌に置いてレイはおみくじの文面を反芻していた。
 これならば願い事は本当に叶うかもしれない。



 その頃、龍巌寺では仕事帰りのマコトがふて腐れていた。

「おう、待ってたぜ、日向巡査」

「今は非番だ。その呼び方は止めろよな」

「ははは、いや、今日はそっちの肩書きの方に用があったのさ」

「は?何のことだ」

 マコトは胡散臭げにシゲルを見上げた。
 この幼馴染は時々たちの悪い冗談を仕掛けてくることがある。
 今も要注意だと頭の中でチビマコトが囁いている。
 何しろ呼びつけたマコトを板敷きに座布団なしで座らせ、
 本人は内陣の中、しかもきちんと僧装束に身を固めているのだ。
 しっかりと自分はふかふかの座布団に座りながら。
 
「シゲル、お前、よく似合ってるよ。その格好」

「そうか?まあ、徳が高い坊主だからな、俺は」

「どこがだよ。俺の言ってるのはその格好が時代劇の悪者の坊主にそっくりだってことなんだよ」

「ふふん、幕府の犬め。失礼なことを言いよるわ」

 か〜ん。

 龍巌寺のけいす(鐘)の音は甲高い。
 黙れといわんばかりに叩かれた音にマコトは眉を顰める。
 完全にシゲルは悪乗りしている。
 長い付き合いだから、このあたりの空気は簡単に読める。
 
「で、何だ。用は」

「まあ、焦るでない。急がば回れというではないか」

「寒いんだよ、ここは。尻が冷えて仕方がない。用があるなら早く言えよ」

「ふふん、修行が足りんのう。まあ仕方がない。凡人だからの、日向巡査は」

「帰るぞ」

「気の早いヤツだ。寒ければ、ほれそこに座布団が積んである」

 シゲルが手にした倍をぐっと差し出す。
 反射的にその方角を見やるマコトは詰まれた座布団の頂に乗っているものに怪訝な顔をする。
 
「ふふん、それだ。用っていうのは」

「はぁ?これがか?」

「ああ、熱心な信者の娘の忘れ物じゃて」

「ちょっと待て。それならお前が持っていけよ。誰が忘れたのかわかってるなら」

「うむ、忘れたのは、碇家の孫娘だ」

「ああ、あそこの子か。亡くなられた娘さんの遺児で綾波…ええっと下の名前は何だっけ。
 確かアルピノで外に出たがらないと…って、おい、面倒くさがらずに自分で行け」

 マコトは腰を上げかけた。
 今日はこれから部屋の掃除をしないといけないのだ。
 
「う〜ん、俺が行ってもなぁ。何の点数稼ぎにもなりはしない」

「点数稼ぎ?何言ってんだ、お前。俺たちが動くのは落とし主不明の…」

 立ち上がり背を向けた親友にシゲルの唇がにやりと歪んだ。
 まさに時代劇によく登場する悪役の生臭坊主そのものの表情だ。

「そのレイって娘な、あっかちゃんの親友なんだってよ」

 ぴくりとマコトの肩が揺れ、そして彼の動きが止まった。

「喜ぶだろうなぁ、あっかちゃんもよ」

 か〜ん!

 倍を振るうシゲルは笑いを堪えるのに必死だった。
 あとでマヤに教えてやれば、きっと爆笑するだろうなと夢想しつつ。

「う、嘘じゃないだろうな」

「ああ、信用しろ。俺は御仏に仕える身だぞ」

 マコトは天井を仰いだ。
 御仏に仕えていようがいまいが、青葉シゲルという男は信用できない。
 とくにこういうパターンの時は。
 学生時代によく悪戯を仕掛けられていた苦い記憶が蘇った。
 あれは高校3年の夏だった。
 マコトが憧れていた年上のお姉さんとデートを取り持ったとシゲルに伝えられた。
 悪戯好きの彼のいうことは信用できなかったが何よりその内容があまりに魅力的過ぎた。
 有名な美人コンビの片割れにして、長髪で愛想がよくスタイルも抜群。
 実家は幼稚園なのだが、一人娘の本人は後を継ぐ気はないらしく、大学は水産学部に進んでいる。
 そんな彼女に憧れる学生はマコトだけではなかった。
 もっともこの田舎町にしてはあまりに上玉過ぎてまさに高嶺の花。
 挨拶でさえ満足にできなかったのである。
 ところが青葉シゲルは実家のつながりで彼女とけっこうフレンドリーに会話していた。
 お寺と檀家というわけだ。
 だからこそ、マコトは99%疑っていても信じてしまった。
 そして、その日待ち合わせ場所の水族館に赴いた。
 午前10時。中央ゲート前にわくわく顔で立っていたのは伊吹マヤだった。
 彼らの街から水族館まで急行で2時間。
 騙されたことを知ってそのまま帰るのも馬鹿みたいな話だ。
 日向マコトはしっかり責任を取らされてその日のマヤにかかった遊行費を全額払わされたのだ。
 あなたの親友の仕業なのだからあなたが責任を取りなさい、と。
 正直、二人とも楽しんだ。
 その上、二人のそれぞれの待ち人とも顔を合わすことができたのである。
 マヤのデート相手であった赤木リツコは売店の店員として、にこりともせずにもくもくとレジを叩いていた。
 輝くような笑顔で近寄って行ったマヤにも「あら、こんにちは」と彼女としては格段の愛想を示しただけに終わり、
 マヤは泣く泣くイルカのキーホルダーをマコトに買わせるしかなかった。
 そのマコトの待ち人だった葛城ミサトはなんとイルカショーに出演していた。
 当然、イルカを調教するほどの腕もあるわけがなく、明らかにお父さんへの(あくまで健康的な)お色気担当であることは見え見えだった。
 ビキニでもなくおとなしめのワンピースの水着だったが、それでもミサトの日本人離れしたスタイルの良さは人の目を引く。
 彼女をここに担当させたのは総務課の殊勲だと水族館中の男子職員及びアルバイトから賞賛を浴びたのは実話である。
 ミサト自身も水産学の中で水棲生物を研究していただけにイルカたちに近い場所でアルバイトができるのは楽しみでならなかった。
 そんなミサトに…マコトは声もかけられず、手も振れなかった。
 いや、水着姿が眩しすぎて、彼女を見ることすらできなかったのである。
 おまけに隣に座っているマヤには彼の意識がバレバレでマコトとしてはまさに居たたまれない状態だったのだ。
 結局、マコトとマヤのデートはその日一日続いた。
 水族館を出た後も、喫茶店に入りシゲルの悪口を中心に楽しく会話をした。
 そこの支払はマヤがしたのだから、彼女もけっこう楽しんだのだろう。
 帰りの急行の中でもボックス席で向かい合って談笑する。
 二人にとってはまるで小学生の頃に戻ったような感じだった。
 もともとがシゲルとともに幼馴染なのである。
 中学高校と男女それぞれのグループに分かれていただけで、別に彼らの間に垣根はない。
 マヤにとっては悪戯ばかり仕掛けるシゲルよりも真面目なマコトの方が話しやすかったということもある。
 そして、二人は決めた。
 この足でシゲルのところに乗り込み、とっちめてやろうと。

 しかし、シゲルの方が上手だった。
 二人が口を開く前にこう言ったのだ。

「よぉ、生まれて初めてのデートはどうだった?お二人さんよ」

 デートという認識もなくただ成り行きで遊んできただけのつもりだった二人はこの言葉に出鼻をくじかれ、そして顔を真っ赤にした。
 シゲルは二人のグラスにコカコーラをなみなみと注ぎ、最初から用意していた論理を展開したのである。
 これはこのままでは暗い学生生活を終えてしまう二人へのプレゼントだったのだと。
 デートの一度もしたことがなかったなどとは恥ずかしくてご先祖さまに顔向けができまい。

「これで、いい思い出ができただろ。高校生最後の夏休みによ。
 ほら、もっと飲めよ、気が抜けてしまうだろうが」

 1リットルのペットボトルを斜めに突き出す彼に呑まれた様にグラスの中の泡立つ褐色の液体を慌てて飲み干す。
 そして、当然の如く発生するげっぷにシゲルの方を窺いマヤは頬を染めた。
 その二人の姿にマコトはふと違和感を感じたのを記憶している。
 ほんの一瞬だったが、幼馴染でもなく、喧嘩友達でもなく、まるで放課後の教室で二人きりで話している恋人同士のような…。
 ただ、そんな違和感はシゲルの馬鹿笑いで散逸した。
 まあいい経験をしたと俺に感謝するんだな、と臆面もなくシゲルは嘯いた。
 それが本気なのかそれとも悪戯の言い訳なのか、シゲル本人にしかわからないだろう。
 マコトとマヤはタヌキに化かされたような思いで、結局コカコーラを三杯ずつ飲まされてしまった。

 その経験がマコトの頭をよぎった。
 そして、苦笑した。
 まあ、悪い経験ではなかった。
 アルバイトもしていなかった高校生の懐にはかなり痛かったが。
 それに今ならわかる。
 シゲルはずっと昔からマヤのことが好きだったんだと。
 ただお互いの家の境遇から決して結ばれる二人ではないと覚悟していたわけだ。
 だが、それで俺とマヤちゃんを結び付けようなんてとんでもない話だ。
 俺とマヤちゃんはどこまで行っても友達、仲のいい幼馴染でしかありえない。
 水族館の時もいわば小学生の時に戻って楽しんでいたのである。
 今となってはそれで済んで良かったとつくづく思う。
 
「はぁ、わかったよ。じゃ、碇さんのところに届ければいいんだな」

「ああ、間違えてもあっかちゃんのところに直接行くなよ。それじゃ得点を稼ぐことにはならないぜ」

「これって、職権乱用にはならないよな」

「非番だからいいんじゃないか?その方が好感度もあがるってもんだ」

 シゲルはニヤリと笑った。
 まったくさすがのガキ大将だ。
 こいつには大人になっても敵わない。
 マコトは座布団の上に置かれた黒い帽子を手に取った。

 かん、か〜ん!

 本堂にけいすが景気よく響き渡った。



 
「つきのひかりよ〜ちえん、つきのひかりよ〜ちえん」

 口ずさむように幼稚園の名前を大きな声で唱え続けるアスカ。
 その隣で呟くように同じ言葉を繰り返すレイ。
 アスカの家で新しい友達だと紹介され、トモロヲに4月から通うことになる幼稚園の名前を聞き出した。
 そしてアスカに「レイちゃんはそこにいくっ?」と迫られたが、もちろんトモロヲがそんなことを知る由はない。
 お菓子とお茶でレイを歓待しようとしたトモロヲだが、ことここに到ると二人の心はもうレイの家に飛んでいた。
 レイの通う予定の幼稚園はどこか。
 トモロヲは綾波家に電話して訊こうかとも思った。
 確かにそれが一番の近道だ。
 だが、彼はそうはしない。
 良い返事にしろ悪い結果にしろ、それは自分の耳で聞くべきだ。自分の目で確かめるべきだ。
 古い人間だと思われようが、トモロヲはそうでなくてはいけないという信念を持っていた。
 人はそうやって強くなっていくものだと。
 しかしその頃、惣流家ではトモロヲは仏壇に祈っていた。
 やはり孫は可愛い。しかもアスカはその孫の娘。
 孫が目に入れても痛くないというなら、曾孫ならもっと凄い表現になるのではないかと最近彼は思い出している。
 なぁ、ばあさんや、お前は見たこともないだろうが曾孫のアスカが悲しまないように何とかしてくれんか。
 同じ仏壇に祭られている娘がこれを聞いたなら、おそらくあきれ果てることだろう。
 馬鹿親父、甘すぎる!などと。
 トモロヲは苦笑した。
 何とでも言え、今はもうあの頃のように言う事を聞かぬ子を殴りつける気力も体力もない。
 この年寄りにできることは子供たちが真っ直ぐに育つように考えてやることだけだ。
 トモロヲは再び瞑目し、そして祈った。
 碇の後家よ、月の光幼稚園だぞ。他のところに決めておれば、この年寄りが許さん。
 さすがにそこは城代家老の末裔。
 開かれた瞼の奥に覗いた眼光は鋭かった。
 
 その頃、アスカは重大なことを思い出した。唐突に。

「あっ、おきくさんのおさら!」

 レイが足を止めた。
 おみくじのあたりで完全に忘れていたのだ、二人とも。
 そして、その忘れていたということが具体的な忘れ物のことも思い出させた。

「あああっ、レイちゃん、ぼ〜しっ!」

「あ…」

 泣きそうな目でレイが頭に手をやった。
 当然、そこにあるはずの帽子はどこにもない。
 
「きっとはげぼ〜ずのとこよっ。きたろ〜、おどってたとき!」

 アスカの指摘どおりだとレイも思った。
 しかし、今取りに行くには碇家の傍まで戻りすぎている。
 帽子に、お皿に、幼稚園。
 レイの小さな身体には問題が山積み過ぎて泣き出したくなった。
 その表情の変化にアスカは素早く身体を動かした。

「レイちゃん、おみくじ!だいきちだよっ!」

「え…」

「ほら、みてごらんよ!ポッケのおみくじ!」

 にんまり笑ったアスカにつられるようにレイはポケットから綺麗に畳まれたおみくじを出す。
 そして開かれた御籤の文面をアスカは指差した。
 天才たるアスカはどこに何が書かれているかもう覚えていた。

「ねっ、ぼ〜しはこれ!うせものはかならずでるって」

「で、でも」

「それから、おきくさんはこのもんだいってやつよっ。もんだいはすぐにかいけつするってかいてあるじゃないっ」

「う、うん」
 
「よ〜ちえんはねがいごとだよっ。かならずかなうんだから、ずえったいにだいじょ〜ぶっ。だいじょうぶだってばっ!」

「そ、そう?」

「そうよっ!なんたって、だいきちなんだもん!」

 アスカは大きく頷いた。
 その自信に満ちた顔を見て、レイも唇を噛みしめて頷く。
 大吉のおみくじが私を守っている。 
 
 2分後、レイの不安は次々に解消された。
 碇家の玄関に入ると、その板敷きに置かれてある黒い帽子がすぐに見えた。

「あっ、ぼ〜しっ!」

 ばたばたと走り寄り帽子を手にするレイ。
 ひっくり返して帽子の状態を確認し、アスカに向かって微笑む。
 
「あった…」

「すごいっ!うせもの、でたっ!」

 アスカの叫びに奥からハルナが顔を出した。

「あら、おかえりなさい。楽しかった?」

 笑顔の祖母にレイは逡巡する。
 次はお皿のことを謝らないといけない。
 だがやはり怖い。

「あのねっ、おさらをわってごめんなさいなのっ!」

 アスカが横から口を出した。
 だが突然お皿といわれてもハルナにはすぐにわかるはずがない。
 しかしアスカに手をしっかりとつながれたレイが涙ぐみながらたどたどしく説明すると、ハルナは豪快に笑い飛ばした。
 
「ははは、そうだったのかい?全然気が付かなかったよ。怪我はなかったかい?」

 その明るさにレイは顔を輝かせる。
 
「うん、だいじょうぶ。あの、ごめんなさい」

「いいよ、もう。まあ、つまみ食いをするからそういうことになるんだ。これから気をつけなさい」

「はい」

「よかったねっ、これでもんだいもちゃぁ〜んとかいけつしたじゃない!」

 二人のいうことはよくわからない。
 だが、どうやら今日一日でこの二人はしっかりと友達になっているようだ。
 お皿が一枚足りないことは気づいていたが、ここは鷹揚なところを見せてやろう。
 ハルナはそう決めると、二人に笑いかけた。

「寒かっただろう?おぜんざいを作ってるんだ。みんなで食べようね」

「レイちゃん、ほらっ」

 アスカに後押しされた。
 最高のおみくじにも安心させられている。
 期待通りの答を望んで、レイは祖母に問うた。



 この年の4月。
 アスカとレイは揃って、月の光幼稚園のひまわり組に入園した。




 
 
 あっかちゃん、ずんずん 第五巻 「あっかちゃん、御神籤に心躍らせるの巻」 −おしまい−



(あとがき)

 第五巻です。
 ご、ごめんなさい。完璧に3人組の話になっちゃってますね。
 あ、覚えてますか?過去に登場した洞木家の刀自が目論んでいたこと。
 日向巡査と葛城家のお嬢さんを引っ付かそうという仲人的目論見を。
 高校時代の憧れの君と、金髪碧眼の子持ちの君。
 マコちゃんはどちらを選ぶ…ったって、それは向こうの意思はまったく考えてないんですけどね。
 いずれにしてもマコちゃんの片思い。
 え?シンジ君?と、とりあえず、名前と運命だけは登場しました(汗)。
 因みにシゲル君はどんどん我が愛読書「青春デンデケデケデケ」の登場人物である坊主に似通っていってますねぇ。
 これはパクリ?(滝汗)

 2005.08.16 ジュン




 はい、ジュンさんからあっかちゃん五巻目です。
 いよいよ登場人物も揃ってきましたね。
 美人先輩コンビは出ましたが、無精髭スイカ男はいつ、どのように登場するのでしょう?
 あっかちゃんも幼稚園に入学です。
 クレ○ンしんちゃんのように嵐を呼ぶ園児になるのは間違いないですが、
 他のキャラクターに対し恋のキューピッドになるのか破壊神になるのか?
 待ち人も、そろそろ登場するでしょう。タイトル絵にもありますしね(笑)

 
猛暑に負けず投稿してくださるジュンさんにメールをお願いします。





(2005/8/16掲載)


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