(Telop in)
A.D. 2015 September.
The Pacific ocean, 30miles offshore from Japan.






青い空

白い雲

そして見渡す限りの海原。

太平洋を渡る風は強い。

その洋上を白い波飛沫を上げながら新横須賀港に向けて進路を取る巨大な艦影があった。


国連海軍所属、太平洋艦隊旗艦空母「オーヴァー・ザ・レインボウ」。

空母、戦艦合わせて10隻近くの大艦隊が護衛するその艦は、国連の守秘優先度AAAの密命を帯びている。


その艦橋上に少女は立っていた。

強い風は彼女の赤みがかった金髪と黄色のワンピースを弄ぶかのように吹きすさぶ。

強風に加えて不安定な空母の艦橋上でも揺らぐことなく立っているその姿はそれだけで彼女が毎日行っている肉体の鍛錬の成果を感じさせた。


そう、彼女は通常の人間ではない。

世界中でまだ三人しか認定されていない究極の汎用人型決戦兵器「エヴァンゲリオン」のパイロット。

セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー。


もうすぐこの空母にサードチルドレンがやってくる。

アスカにとっては、初めての自分以外の適格者との対面。

彼女は噂のサードチルドレンについて、かなりの興味を持っていた。


エヴァ初搭乗でシンクロを成功させ、なおかつ初めての実戦で使徒を倒した少年。

アスカの所属していたドイツのNERV第3支部にもそのできごとは驚愕の事実として伝わっていた。

そのことが彼女のプライドを強く刺激していた。

(同世代の何百万人の中から選抜されているんだから特別な少年にちがいない。わたしの予想では身長は170p以上はあるわね。筋力は少なく見積もってもわたしの1.5倍ぐらい。下手すると2倍近くあるかもしれない。おそらく肉体的なパワーやスピードでは叶わない。でも、そう簡単にパイロットとして負けるつもりはないわ。アタシのパイロットとしてのスキルネスとアジリティはドイツで一番だったんだから!それになによりエヴァの操縦はシンクロ率がものをいう。さあ、今日から勝負よ!サードチルドレン!!)

同胞に会うような親しみとライバルに会うような高揚感。

複雑な感情がアスカを支配していた。


日本。

母の故郷。

そして、自分が戦うべき目標、謎の敵性体「使徒」が襲来する場所。

そこでこれから行われるであろう戦いは人類の存亡を賭けたものであると同時に、彼女にとっては人生を賭けた自分の存在証明でもある。

彼女は艦橋上の手すりを握りしめ、ヘリがやってくるであろう方向をしっかりと見定めた。

目の前の運命の扉は、今まさに音を立てて開きつつあった。







































「Hallo ! Misato. Wie geht…Uh… 元気してた?」

「Danke. 日本語だいぶ上達したわね、アスカ。日本語の先生が良かったせいかしら?」


「Nein! 相変わらず冴えないジョークね。 ミサト。」

かつて一緒に過ごしていたときのことを思い出し、微笑みあう二人。


程なくアスカの表情が少し引き締まる。

「で、サードは?」

そんなアスカをミサトは少し苦笑したように見たが、内心は頼もしくも感じていた。

「この子よ。仲良くしてあげてね。」

ミサトは彼女の後ろに隠れるように立っていた少年を少女の前へと導いた。

「さあ、シンちゃん。新しい仲間に挨拶して。」

少年は少し伏し目がちに愛想笑いを浮かべながら、怖ず怖ずと手を差し出した。

「碇シンジです…よろしく。」

「アタシは惣流・アスカ・ラングレー。よろしくね。」

握手を交わしながらアスカは内心驚いていた。

(こんな冴えない子が使徒からTokyo-3を防衛してたっていうの?ウソでしょ‥そしたら使徒ってのは案外たいしたことないのかもね。まあいいわ、実戦が始まればサードと使徒両方のお手並みを拝見といくから。)


少し拍子抜けして、気を弛ませたアスカにミサトは話しかけた。

「ああ、それからこっちの男の子はシンジくんの友だち。話し相手として同行してもらったの。」

それを聞くとアスカは少し眉をひそませた。

(無関係の民間人を最高機密の場につれてくるなんて相変わらずガードが甘いわね。ミサト。こんなことしてたらいつかイタイ目を見るわよ。)

シンジの横にいたメガネの少年が前に進み出た。

少年はアスカににこやかに微笑みかけながら手を差し出した。

「オレは相田ケンスケ。碇シンジのクラスメートさ。よろしく。」

アスカは少し値踏みをするような目で彼を見た。

「ふぅーん。よろしく。」


トクン


握手したとき少し心臓の鼓動が早くなったような気がした。

何だろう?この感じ。

シンジとの握手より素早く手を離したアスカはくるりと踵を返してその場を立ち去った。




エレベーターに乗っているミサトを追いかけるように駆け上がってくるアスカ。

「ミサト!待って!」

「アスカ?どうしたのそんなにあわてて。」

「えっとねえ。あのね、あの男の子ってどんな子?」

「えっ、シンジくんのこと?」

「ちがうわよ、あのメガネをかけてた男の子よ。」

「ああ、相田くんね。どうしたの?まさかアスカぁ!彼のことが?うふっ。」

「ち、ちがうわよ!」

「じゃあ、なんなのかにゃー?お姉さん教えて欲しいにゃー。」

「そ、それはちょっと、その、雰囲気が、なんか、気になるなって・・」

アスカの様子を見て、ミサトの顔が少しほころんだ。

「いい子よ、とっても。サードチルドレンの碇シンジくんと仲良しのクラスメイトなの。あなたも同じクラスに編入するんだから今のうちに仲良くなっていれば?もし良かったら食事会くらいセッテイングぐらいするわよーん。」

「いいわよ!そんなの。ヘンに気をまわさないでよ。何でもないんだから。」

「そんなこと言ってアスカちゃん、ホッペが赤くなってるわよ。」

そう指摘されるとアスカの顔はさらに赤みを増した。

反論しようにもことばが出てこない。

「もう!ミサトの意地悪っ!知らないっ!」

アスカは顔を隠すように振り向くと一目散に走っていった。

「ふふっ。ちょっとイジめすぎちゃったかな‥ゴメンねアスカ。」

そう呟いているうちにも彼女の姿は遙か彼方まで遠ざかっていた。同年代の短距離走者と較べてもそう引けをとらないスピードだ。

「ひゃあ!速い、速い。さすがドイツ支部で毎日地獄の訓練を受けていただけあるわね。」


感嘆の声があがる。

「これは期待できるかも‥頼んだわよ。アスカ。」

いつのまにかミサトの顔は特務機関NERV作戦部長のものへと変わっていた。


そう、人類には時間がないのだ。

次の使徒の侵攻はすでに始まっていた。








つづく









(2006/10/24掲載)


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