ウタノチカラ 
   written by霜月 梓


アレはいつのことだっただろうか?

そう、まだ小学校低学年のころだった。

学校でケンカをして、父さんにつれて帰ってもらった日だったと思う。

アスマ兄さんがおたふく風邪でNERVの病院に入院してて、母さんはそっちに付きっ切りで。

じいちゃんとリツコさんがミコトを預かっていてくれていて、




その晩は、はじめて父さんと二人っきりだった。




帰り道に父さんは、"チカラ"について僕に話していた。

成長していくにつれて、その内容が理想論だと揶揄されていることもわかった。

"真に守りたいもののためだけのチカラ"

今の自分ならわかっているとも到底言うことはできないけど、あの頃の僕にとってはとても印象的で、その後の僕のあり方を指し示し続けてくれた言葉だ。

でも、幼い僕にはその言葉は重すぎた。


夕食時になっても一言もしゃべらない僕を、父さんは何かと気遣ってくれた。

後で聞いたら、気が気でなかったそうだ。

でも、そんな父さんの思いも気づけず、夕暮れ時の一言を受け止めきれずにいる僕がいた。



「人は、どうして争うんだろう。」



ついに、風呂に入ってもしゃべらない僕を、父さんはやさしく父さんと母さんの部屋に連れて行ってくれた。

二人の部屋は、キングサイズのベッドと洋服ダンス。そして、チェロとグランドピアノがおいてあった。父さんが休みの日の午後、よくそこでチェロを弾いていた。それが僕にはいつまでたっても子守唄のように聞こえてならなかった。

でも、父さんが向かったのはチェロではなくピアノだった。

父さんは恥ずかしそうに頭を書きながら、

「うまくできるかな・・・」

なんて言っていた。

弾き始める直前に僕のほうを向いて、

「リュウジ、焦らなくていいんだよ。ゆっくり、ゆっくり、自分に与えられて"チカラ"の意味を考えていけば。守るべきものを見つければ。そんなリュウジにせめてもの励ましに、この曲を贈るね。」

と言い、父さんはピアノの伴奏とともに歌いだした。

透き通るきれいな歌声にのせられたのは、the Beatlesの「Hey Jude」の替え歌、「Hey Ryuji」だった。Judeの部分だけリュウジになっているそのメロディーは、幼い僕の心を大きく揺さぶっていた。

ポタンと水音がすぐ近くでしていた。

僕の涙だった。感動して泣いたのはそれが初めてだった。

父さんの持つ「ウタノチカラ」に、僕は心を奪われた。

歌いきった父さんは、僕を優しく抱きしめてくれた。

結局その日、僕は帰ってから食事の挨拶と嗚咽以外声を発さなかったけど、言葉より大切なものを得た気がして、凄く満ち足りた思いで眠りについていた。




 まどろみから舞い戻ると、すこし頭が重い。壁の時計を見れば、そろそろ空が白んでくる頃だ。それにしても、彼女は目の前の固く閉ざされた扉の向こうでがんばっているというのに、ぼくは寝ていたのか。

 チカラ、大切なものを守れるチカラ。今の僕にはあるのだろうか?

 天使がラッパを吹き、白衣を纏った女性が出てくる。

 この瞬間に生まれ来る子供にも人を感動させる力がある。

 命を賭して守ろう、かつて父さんが僕らにしてくれたように・・・

 父さん譲りの手を開いたり閉じたりする癖をして、僕は分娩室と書かれた扉の向こうへ歩き出した。

<Fin>


<あとがき>

霜月 梓です。

20万ヒットおめでとうございます。

大好きなリュウジくんを主人公にして、ずばり父親となる時の強さをテーマにして見ましたが・・・

いかがでしたでしょうか?

タイトルは、僕のfaborite=singer浅岡裕也さんのバラードを使いました。

「人は何故争うのか」

それは、今僕が生きていく中で模索していきたい一つの題材の一つです。

それを、自分なりにどう受け止められるのか。



こんな駄作ですが、最後まで読んでもらい、誠にありがとうございます。

では、また!!








霜月さんから、わたしの夫婦絶唱の設定を使ったSSを頂きました。

しかし自分の考えたSSに深い思い入れを持っていただけるのはありがたいですが、エヴァSSとはいえないかも…?(笑)

ともあれ、夫婦シリーズがお好きな方で面白かった方は、霜月さんに感想のメールを〜
戻る