Cold Day's

AzusaYumi

アスカが風邪を引いた。

前日に、雨に打たれながら学校から帰ったからだ。
幼馴染のシンジは、雨が降りそうだから傘を持っていったほうがいいと言った。
しかしアスカは…というよりも、女の子はとにかく大量の小物を持ち歩く。

リップ、ブラシ、ハンカチ、ハンドタオル、髪止め、手鏡、エチケットスプレー、ソーイングセット、ちょっとしたアクセサリー、かわいい柄のカットバン、日焼け止め、化粧水、乳液、ハンドクリーム、歯ブラシ、駄菓子、文庫本、学校にこっそり持って来ているファッション雑誌、爪きり、毛抜き、指ぬき、頭痛薬、便秘薬、胃腸薬、口臭予防剤、生理用品、その他諸々…。

もう、それだけで学用品プラスアルファ数百グラムの重さになる。
それにグラムの折りたたみの傘を持ち歩くのは少し気が引けた。故に、幼馴染の進言に対し彼女は、

「アンタが持ってなさいよっ」

と、言った。
シンジはせっかく忠告してあげたにのも関わらず横柄な彼女の物言いに、

「イヤだよ。自分のモノは自分で持ってけよ…。」

と、言い返す。

「やーよ。バーカ。」

シンジが噛み付いてきたことに、アスカは少し不機嫌になった。

学校の終了時間、雲行きはどんどん怪しくなってきた
帰り際になってから土砂降りの雨になった。
シンジは折りたたみの傘を持ってきていたので良かった。
しかし、問題はアスカの方だ。
傘を持っていない。

シンジは余裕な面持ちで折り畳み傘を広げる。
側で見ていたアスカは横目に恨みがましい視線を送る。
それを見て取ったシンジが、声をかけようとした。
すると、彼女は声をかけられる前に、一目散に、土砂降りの雨の振る中、下駄箱から校庭へと飛び出して行った。

「今日、休みなのに、最っ低…」

アスカがベッドの中で体温計の温度を見ながら、ぼやく。
今日は土曜日。学校は休みだが、父と母は仕事で研究所に行っていて居ない。

「…冷蔵庫の中って、なんかあったっけ…?」

熱のせいで喉が異様に渇いた彼女は、冷蔵庫の中を覗きに行く。
…何もない。

「はぁ。ママが仕事行く前に、風邪引いたって言えば良かった…。」

アスカは朝から熱がある事を両親に伝えてなかった。
父と母の仕事が忙しいのを知っている。
休みの日の寝坊を偽って、何も言わずに寝たフリをした。
しかしこの心遣いは、かえって仇になってしまった。

彼女はキッチンのテーブルを見た。
娘が休みの日で自分達が仕事の日だと、母のキョウコは昼食代にいくらか置いていく。
彼女はテーブルに置いてあるお金を見て、大きく溜息をついた。

「…はぁ。なんか買いに行く気力も体力もナシ。サイテー。」

しかし、このままボーっとしていても喉の渇きは癒えない。
茶を沸かして飲むという頭はない。メンドクサイ。
とにかく彼女は、ガンガンのキンキンに冷えたものが飲みたかったのだ。
仕方なしに、近所の自販機からジュースを買うべく、テーブルに置かれたお金を掴んでカーディガンを羽織って外に出た。

「ううう…クラクラする…。」

アスカはマンションの壁をつたってエレベーターまで行く。
フラフラヨロヨロしつつも、気合と根性で目的地を目指す。
しかし、そんな彼女をあざ笑うかのように、イレギュラーは突然やって来る。
ちょうど彼女の住んでいるマンションの隣の部屋に住んでいる幼馴染シンジの家の玄関前まで来た時に、急にそのドアが開いたのだ。

「んっぎゃあっ!」

彼女がやっとの思いで壁を伝ってフラフラと歩いていた所に、思いっきり頭からドアをぶつけられ、勢い余ってその場に派手に転倒する。
頭のクラクラが、ガンガンの痛みに変る。

「あっ…ごめんなさいっっ!!」

急にドアを開けた張本人…シンジが彼女の叫びを聞いて、慌てて謝る。

「あ…ぐっ…!!い…痛っっっっ〜〜〜〜!!」
「って…アスカ?!」

尻餅をついて頭をさする少女を見て、シンジが素っ頓狂な声を上げる。

「ご…ごめん。アスカが居たの、気付かなくて…。」

シンジがマンションのタイルの床に膝をついて、侘びを入れる。
そして、へたれるようにアヒル座りになっているアスカの額に手を当てる。
赤く腫れた額はじんわりとした熱を帯びていた。

「うわ…熱っぽい…。腫れちゃった…かな?ゴメン…。」

「〜〜〜腫れちゃった…じゃないわよっ!!熱なら最初からあるわよっっ!!
 ちゃんと外に人が居ないか、確認してからドアを開けなさいよっ!!このボケっっ!!」

「ご…ごめん…。」

この煽りに、シンジはバツが悪そうに相手の顔色を伺いつつも、ひたすら謝る。
しかし彼は、今言われた言葉に、熱と怒号で真っ赤になっている彼女の頬とカーディガンを羽織っただけのパジャマ姿を見て、急に真顔になる。

「って、アスカ、熱があるの?!」

再びシンジは彼女の額に手を当てた。
いきなりの彼の行動にアスカがビクぅっとなる。
真剣な面持ちのシンジ。
よくよく見れば、彼の顔がかなりの至近距離にある。
何故だかよく分からないが、心臓がドギマギする。

「ちょっ…ちょっと!!」

アスカの熱で赤くなった顔が、更に赤くなる。

「うわ、ホントに熱いよ。外に出てる場合じゃないじゃないか。ちゃんと寝てなくちゃ!」

動揺するアスカをよそに、シンジはその手を引っ張って立ち上がらせて、隣の彼女の家の玄関の方へグイグイ引っ張っていく。

結局、アスカはシンジによって自分の部屋に無理やり寝かしつけられた。

「知ってる天井だわ…。」

ボケ〜っとしながら、どこかのテレビ番組か何かで聞いたようなセリフをなんとなく言ってみたりする。
シンジは今、近所のコンビニにスポーツドリンクやらなにやらを買いに出かけている。
どうやら看病をするつもりらしい。

「アスカ〜買ってきたよ〜?」

ガサガサと買い物袋の音を立ててシンジが帰ってきた。
袋から冷えたペットボトルのスポーツドリンクをアスカに手渡す。

「はい、飲みたかったんでしょ?」

先日と同じく、恨みがましい視線を彼に送りつつスポーツドリンクを受け取る。
その様子に、シンジが少し眉を顰める。

「何だよ…。」

少し低い声を出してシンジが言う。
そんな彼の様子に、アスカが冷めた目で見る。

「アンタさぁ…。
 さっきもそうだけど、よくもまぁ、女の子の部屋に図々しく入ってこれるわねぇ…。」

先ほど無理やり自分を寝かしつけた事を思い出しつつ、アスカは嫌味をたっぷり込めて言う。
これを聞いたシンジは少しムッとした顔つきになる。

「だって、入らなきゃ看病できないじゃないか。」

この言葉に、彼女はむくれた表情をする。

どうもこの男は、デリカシーが欠けているらしい。
アスカも一応年頃の少女だ。
昔は、幼馴染のよしみか、遊びに来れば平然と出入りさせてはいたが、今はあんまり入って欲しくはない。

「大体何でアンタが私の看病すんのよ?アンタ、どっかに出かけるんじゃなかったの?」

「別に…。ちょっとCDでも買いに行こうかなって思っただけだし。
 大体、アスカが昨日土砂降りなのにそのまま濡れて帰っちゃうからいけないんだろ?
 せっかくアスカの分の傘を持ってきたのにさ…。」

これを聞いた彼女は思いっきり顔をしかめた。
大体予想はついていた。
アスカがどれだけ悪態をついても、シンジはなんだかんだ言って、傘を持ってくるんじゃないかと。
ただ、あんまり意地悪な様子で自分の傘を広げて見せるものだから、悔しくなって雨の降りしきる中、校庭へ飛び出していったのだ。

その事を思い出したアスカは、眉間の皺が深くなり表情筋が引きつる。

「…何だっていいじゃない。何よ、ムカつくわね!!」

「…はぁ。まったく…。本当、アスカって…」

この期に及んでまだ悪態をつこうとする彼女に、シンジは大きく溜息をついて何かを言おうとした。

「…何よ?」

相手の様子に、彼女のこめかみに少し血管が浮き、口の端がヒクヒクと動く。

「…何でもないよ。あ、お粥作ってくるからさ、待ってて。」

シンジはそういうとそそくさとアスカの部屋から出て行った。

アスカは腑に落ちない様子で、彼の出て行った後のドアをじっと見つめていた。

アスカが布団を頭まで被って寝ていると、部屋をノックする音が聞こえた。

「アスカ、入るよ?」

そう言ってシンジがお盆を持って部屋に入ってきた。

「はい、出来たよ。」

お盆の上には、お粥としらす干しで和えてあるホウレン草のお浸し、小皿には豆腐と卵豆腐の二種類、それとミルクセーキが取っ手付きのタンブラーに入って乗っていた。

「…見事な病人食ね…。」

「だって病人だろ?」

そう言ってシンジはお盆を部屋の机の上に置くと、部屋の壁に立てかけてあった小さなテーブルを引っ張り出し、折ってあった脚の部分を広げて、その上に持ってきたお盆を乗せた。

「はい、食べてよ。」

アスカは小さなテーブルの上に置いてあるお盆の上のものをマジマジと見た。

 卵豆腐…さっき冷蔵庫の中を覗いた時になかったわ。
 ミルクセーキ…さっき、何か飲もうと思ったら牛乳すらなかったわ。
 しらす干し…洋食派のママは買ってこないわね…。
 …っていうか、明らかにウチの冷蔵庫の中になかったモンばっかりじゃん!!

アスカは彼の顔をじっと見る。

「…な、何?」

あんまりアスカが自分の顔をまじまじと見るのでシンジが少したじろいだ。
そんな様子に、彼女は白い目を向ける。

「これってさぁ、アンタの家で作ってきたんじゃないの?」

「だって、アスカの家の物を勝手に使っちゃ悪いかと思って…。」

慌てて答えるその様子に、彼女は少し溜息をついた。

はぁ、なーんか、デリカシーが欠落してるクセに、変なところで気を使うのね…。
そうしみじみと思いつつ、お盆に乗せられたままテーブルの上に置いてある食事に手をつけた。

まず最初に、アスカはミルクセーキから飲もうと、タンブラーに手をかける。

と、その時、熱のせいか少し手元が狂ってミルクセーキの入ったタンブラーをひっくり返しそうになる。
気合でなんとかタンブラーを倒さず、しっかりと持つ。
しかし…。

「あ。」
「あ。」

アスカとシンジが同時に声を上げた。

確かにタンブラーはなんとかひっくり返さずに済んだ。
しかし、中に入っていたミルクセーキが、豆腐と卵豆腐の入った小皿にダバダバと…。

「………。」
「………。」

アスカとシンジが、ミルクセーキのかかった豆腐と卵豆腐をマジマジと見る。
冷たい豆腐と卵豆腐にかかった、甘い甘いミルクセーキ。
これがカスタードプリンやヨーグルトだったらまだ良かったが、よりにもよって豆腐と卵豆腐。
正直、あまりいい取り合わせとは言えない。

「…あの、取り替えて…こようか?」

シンジがおずおずと声をかける。
しかし、アスカは精一杯の余裕の笑みを浮かべて言う。

「問題無いわ。胃に入れば同じ事よ。」

そう言って、スプーンで卵豆腐を掬って口に運ぶ。

…うっ!!

口の中に広がる、卵豆腐の、昆布系ダシの豊かな味わい。
ヒンヤリと冷えた卵豆腐と、ミルクセーキの甘みとのコラボレーション。
ミルクセーキのカスタード系統のほのかな甘みは、その昆布ダシの卵豆腐と相まって、複雑な味を醸し出す。
心優しいシンジは、そのミルクセーキにバニラオイルを加えていた為か、バニラの甘く芳醇な香りが鼻腔を通じ、口の中一杯に広がる。
そして、昆布から取られた天然のグルタミン酸の味わいとバニラから抽出した香りが織りなす、えも言えないその…

…はっきり言えば、まずい。

アスカはかなりのしかめっ面をする。
しかし、ソレを口に運ぶ手を休めたりはしない。
気合と根性でソレを口に運び続けるアスカを、シンジは何も言えずに、ただただ、ひたすら見守っていた。

シンジがアスカの部屋で自分の家から持ち出したSDATを聞きながら、ラペラと音楽雑誌を読んでいると、ベッドで大人しく寝ていた"ように見えた"その部屋の持ち主が唐突に声を上げる。

「…気持ち悪い。アイス、食べたい。」

突然浴びせられたこの言葉に「はぁ?」という顔をして、耳にしてあったSDATのイヤホンを取る。

「暑っついっ!!汗だくっ!!気持ち悪いっ!!シャワー浴びたいっ!
 すーっごく冷たいアイスが食べたいっ!」

顔をしかめて喚く我がまま娘に、シンジは深い溜息をついた。

「分かったよ…。今から洗面器にお湯汲んで、タオルと一緒に持ってくるから待ってて。」

そう言ってシンジはイヤイヤ立ち上がる。

「イヤ。シャワーじゃなきゃ、イヤ。」

即答でこの心遣いを拒むアスカ。
この期に及んで無理を言う彼女に対し、彼はやや呆れたような顔をした。

「何言ってるんだよ?熱あるのに…。」

「イヤよ。拭くだけじゃイヤ。私、シャワー浴びてくる。」

そう言ってアスカはベッドから抜け出した。
そして、自分の部屋のタンスの引き出しから着替えを色々と引っ張り出して洗面所へ向かう。
シンジはそんな彼女の様子に深い溜息をついた。

「…もう。 どうなったって、知らないよっ。」

そう言うシンジに、アスカは「バーカ。」といわんばかりに舌を突き出し、洗面所の中へ入っていった。

「うわ、汗だく。サイテー。もー気持ち悪い〜。」

アスカは汗で身体に張り付いているパジャマやら下着やらを次々脱ぎ捨て、洗濯機の中に放り込みながらブツブツと悪たれた口を叩く。
風呂場へ足を運ぶ時、彼女は少し目眩がした。
戸のサッシの部分を咄嗟に掴んだ。
しかし、ここで引き下がったりぶっ倒れたりしたんでは、シンジの言う事の方が正しいと認めてしまう事になるので、アスカは気合で耐える。

「…負けてらんないのよ。」

一体何に対して勝負をしているのか分からないが、彼女はそう決意を込めて呟く。

風呂場に入ったアスカは、熱でクラクラボーっとする頭を振りつつ、今から何をするか思案する。

「ええっと、蛇口。そう、まず蛇口を捻って…。」

熱で少し呆けかかった頭をなんとか働かせて、最初にするべき事を思い起こす。
水道の蛇口を捻る。
すると、突然、取っ手にかけてあったシャワーのヘッドから、お湯でなく冷たい水が彼女の頭上目掛けて降り注ぐ。

「んっきゃああああああ!!」

心臓がひっくり返りそうなほどの冷たい水に打たれ、アスカが断末魔の悲鳴を上げる。

「どうしたのっ?!」

アスカの叫びに、少し心配だったのか、洗面所の前でウロウロしていたシンジが慌てて風呂場に駆け込む。

冷水に打たれながら、アスカは突然風呂場に飛び込んできたシンジを見て、再び断末魔のような、とてつもない悲鳴を上げる。

「きゃあああああああ!!!!何でアンタがぁぁぁぁぁぁぁぁづ、づ、づめ゛だ〜〜!!
 いやぁぁぁぁぁぁ〜〜!!!!!」

既にアスカは何の叫びなのか分からない声を上げている。
酒池肉林、いや違った、アスカの阿鼻叫喚の最中、彼は事態がどのようになっているのか、混乱しつつもなんとか理解するように勤めた。
アスカが頭からシャワーを浴びて叫んでいる。
と、いうよりも、このシャワー、冷たい。
シンジは何とか事の次第を理解し、慌てて蛇口を止める。

膝をつきながら、肩で息をするアスカ。
やっとの思いで冷水地獄から解放された。

「はぁ、はぁ、死ぬかと思っ……。」

ふと、アスカは、シンジが自分の姿を呆けた眼差しで見入っているのに気が付く。

…自分は今…裸だ!!

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!バカ!!H!!!スケベ!!!!」

「ご、ご、ごめんっっっ!!!」

アスカの素っ裸を余すところ無く見てしまったシンジは、シャンプー、リンス、ボディーソープ、石鹸、軽石、洗面器、腰掛、風呂の蓋、とにかく、風呂場にあるありとあらゆる物を投げつけながら、逃げ出すようにその場を後にした。

「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」

風呂場から出たアスカは自分の部屋のベッドに横になりながら、シンジを睨みつけて延々と呪いの言葉を呟き続ける。
しかし、彼はイヤな事から目を瞑り、耳を塞いで生きて来た少年である。
しっかりとSDATで耳を塞いでいて、彼女の呪いの言葉は彼の耳に届いていない。

「ちょっと!!アンタ聞いてるのっ?!?!」

突然起き上がると、シンジの耳に塞がっていたSDATのイヤホンを引っ張ってぶん捕り、耳に向かって大声を張り上げて叫んだ。

「〜〜〜っ!!!耳にワンワン響く〜〜〜〜!!!!!」

病人とは思えない、鼓膜が破れるかと思うほどの大声を、耳の至近距離から浴びせられたシンジが慌てて耳を塞ぐ。

「全部アンタがいけないんでしょうがぁっ!!!!」

アスカが熱で赤くなった頬を更に怒りで真っ赤に染めて、耳を塞いでいたこの男に人差し指をつきつけながら怒鳴りつける。
最初のアスカの大声に耳鳴りがしていて、今の言葉を上手く聞き取れなかったシンジだったが、彼女の様子から言っている言葉の意味は分かったらしく、少しカチンと来て耳を押さえながら言い返す。

「何言ってんだよっ!?自分の事は棚に上げといて、人のせいにするの?!」

「ああん?!私が悪いってぇの?!」

即座に噛み付き返す。
そんな道理の通っていないような我がままな言い様に、シンジもさすがにカッとなって彼女を睨む。

「もういい!!アスカなんか知らないよっ!!」

険しい顔つきでそう言うと、即座に立ち上がって、ズンズンとドアまで歩いて行き、そのまま彼女の部屋を出て行ってしまった。

「知らなくて結構よっ!!」

シンジの出て行った後のドアに向かって彼女は叫んだ。

アスカは頭まで布団を被って、ベッドに横になる。
少し暑いが、彼女は今ふてくされているので、あまり気にならない。

…五分経った。
…シンジが戻って来る気配は無い。

…十分経った。
…シンジが戻って来る気配は無い。

アスカは少し、不安になる。

…十五分経過。
…シンジが戻って来る気配は、無い。

「シンジ。」

不安になってきたアスカは、彼の名前を呼んでみる。
…返事が無い。

アスカはベッドから抜け出して、自分の部屋から出た。
そして、リビングへ続く廊下を見渡す。
…彼の姿は無い。

「シンジ。」

もう一度、彼の名前を呼んでみる。
…返事が無い。

「シンジ。」

居ない。

アスカはウロウロと、リビングや、シンジが決して入らないだろうアスカの両親の部屋や、父の書斎などを見て回った。

何処にも居ない。

「…シンジ。」

アスカはリビングで立ち止まり、へたり込むように、その場にゆっくりと腰を下ろした。
熱でクラクラする。
目頭も熱い。
視界がジワジワとぼやけてくる。
ああ、熱があるからなんだな。
そう、自分に言い聞かせながらうな垂れるように、絨毯を見つめる。

「…ホントに帰っちゃう事、ないじゃない…。」

アスカは寂しげに言った。

「アスカ〜アイス買ってきたよ〜?」

突然、玄関からシンジの声がした。
うな垂れていたアスカがビクっとなって玄関の方に顔を向ける。

「アスカ〜?って…あれ?なんで居間なんかにいるのさ?」

シンジがリビングでへたり込んでいるアスカを見るなり、間の抜けた声を上げて言う。

「…アンタ、帰ったんじゃないの?」

アスカが目を真っ赤にしたまま、眉間に皺を寄せた胡散臭そうな顔をして言う。

「…え?だってアスカ、アイスが食べたいって言ってたじゃないか?」

そう言ってシンジは手に持っていたコンビニの袋を彼女の方に差し出す。
袋の中にはラクトアイスが三つほど入っていた。

「アスカがあんまり我がまま言うもんだからさ、ちょっと気晴らしと気分転換に買いに行ったんだ。」

シンジがコロコロと笑いつつ、言う。
しかし、自分をじっと見ているアスカの目が真っ赤になっているのに即座に気が付いた。

「…あっ!!どうしたの?!目が充血していよ!!」

目を真っ赤にしていへたり込んでいるアスカに、彼は膝をついて彼女の顔に両手を添える。
彼女の頬に熱とは違う別の赤みがさす。

「…な、な、何でもないわよ!!」

真剣に顔を覗き込んでいる彼の目から、慌ててプイっと顔を背ける。

「…はぁ。まったく…。本当、アスカって、意地っ張りだよね…。」

シンジが溜息をついてボソっと言う。

「な、な、ナニよ?!意地っ張りって何なのよっ?!」

「…そのまんまだよ。
 それよりさ、アスカ。ちゃんと寝てなきゃダメだよ。」

目を赤くし、先ほど顔を赤くしたのとは別に赤くさせるアスカをよそに、シンジは彼女の手を引っ張って立ち上がらせて、彼女の部屋へとグイグイ引っ張っていく。

結局、アスカはシンジによって再び自分の部屋に無理やり寝かしつけられた。

「…イヤだな。また、この天井だわ…。」

アスカは朝方シンジに寝かしつけられた時と同じく、ボケ〜っとしながら、どこかのテレビ番組か何かで聞いたようなセリフを再び口にしてみたりした。

「もう、何言ってんだよ?ほら、アイス。口開けて。」

シンジはスプーンにラクトアイスを掬って、寝ている彼女の口に運ぶ。
さすがのアスカも今度ばかりは大人しく彼の言う事に従って、口を開けてアイスを食べる。
むくれた顔をしながらも、もぐもぐと口を動かしてアイスを食べるアスカ。
彼女がちゃんと食べる所を確認すると、シンジはアイスを掬って今度は自分の口に入れる。

「あ〜〜〜〜っ?!」

「…?どうしたの?」

アスカが「間接キス!!」と叫びそうになったのを、なんとか堪える。
動揺しまくる彼女の事を知ってか知らずか、シンジはそのままのほほんとした様子で再びアイスを掬って彼女に差し出す。

…自分は持つだろうか?

アスカは真っ赤になりながらそんな事を考えつつ、シンジと二人っきりの部屋で、彼にアイスを食べさせてもらっていた。

次の日、日曜日。

昨日の風邪がすっかり治ったアスカは、元気よく自分の住んでいるマンション部屋の玄関から外へ飛び出す。

彼女が走り出そうとすると、隣の碇家の玄関の前で、フォーマルな格好をしたシンジの母のユイが困った顔をして、夫のゲンドウとなにやら話をしている。

「どーしたんですか?おば様??」

「あら、アスカちゃん。
 それがねぇ、今日親戚の家で法事なのにうちのシンちゃんったら風邪引いちゃってねぇ。」

「なに、問題ない。」

困った顔をしているユイとは対照的に、ゲンドウが息子に対して無慈悲な台詞を言う。
ユイがゲンドウに鋭くガンを飛ばす。

アスカの目がキラリと光る。

ちゃぁ〜んす。

「任せておば様!!シンジの看病は私がしますからっ!!
 おば様は安心して法事に出かければいいわっ!!」

元気よく宣言するアスカに、ユイの顔が少し綻ぶ。

「まぁ、そう?でも悪いわ〜。」

「だーいじょーぶですって!!
 今日はウチのママも居るし、シンジの世話はバッチリ任せて!!」

「うむ。では、後を頼む。」

何処までも息子に無慈悲なゲンドウは、即決でアスカにシンジを任す。
ユイがジト目でゲンドウを見る。

「…はぁ。昨日はちょっと疲れたかな…?」

自分の部屋のベッドの上で横になっているシンジがボソっと呟く。
熱は38度近く。結構辛い。

「シ〜ンジっ♪」

自分の部屋のドアの前から聞きなれた少女の声が聞こえてきた。
突然部屋のドアが開く。

「あ…アスカぁ?!」

素っ頓狂な声を上げるシンジに、アスカはニヤリと笑う。

「アンタ、風邪引いたんだってねぇ?
 安心しなさい。昨日のお礼に、このアスカ様が直々に看病してあげるから!!」

シンジの額に、熱からではない汗がじっとりとにじみ出る。

「んっふっふっふっふ〜♪
 待ってなさ〜い♪今からアンタの為に、"病人食"作ってきてあげるから〜♪」

再び"ニヤリ"と笑うアスカに、彼は今日の運命を悟った。

「…お豆腐と卵豆腐のミルクセーキかけ。食べられるかな…。」

シンジは哀しげに呟いた。

おわり

あとがき
学園エヴァでドタバタラブ米…の、つもりです。
というよりも、ちょっと天然っぽいへっぽこアスカに…(しかも少し電波がかかって…)
す、すいません、三只さん。頑張ったんです。頑張ったんですよ。
…の、つもりなんですが…(汗)

初稿 : 2005/07/28 修正:2005/07/29 : AzusaYumi 公開:2005/7/30



あずさゆみさんからラブ米を頂きました。

今回の山場は、根性で病人食(豆腐のミルクセーキがけ)を平らげるシーンだと私的には思ってます(笑)

このアスカとシンジ、電波系というより因果は巡るというかなんというか。猫のじゃれあいみたいな感じもしますねー。

まあ、二人とも幸せそうだから大丈夫でしょう。

終わりよければ全てよし! ということで。投稿ありがとうございました。


>







戻る