華々しい舞台に真夏の日差しのようなスポットライトが当たっていた。
うら若き乙女達が華麗に舞っている。観衆は白熱する。
二人の少年が彼女らの前で手に手を取り合って華麗に?踊っている。
黒髪の少年と銀髪の少年……そう、今日の主役だ。

裏切ったな…!僕の気持ちを裏切ったな!

黒髪の少年は心の中で絶叫する。
その傍らで麗しき?銀の髪の少年は白い歯を輝かせ、爽やかな笑顔を見せて歌っていた。

ああ、今日は舞踏会。歌はいいね……

男子絶唱祭

後編

Writer AzusaYumi

新入生歓迎会。第3新東京市内にある第壱中学で毎年執り行われている恒例行事である。
毎年在学生によって盛りあがっていたのだが、去年は行う事が出来なかった。俗に言う“使徒戦役”の為だ。
第3新東京市は正体不明の敵性体、“使徒”との攻防の中心地だった。
周辺住民は苛烈を極めた戦いに、一時的な疎開を余儀なくされた。当然、住民がいなくなってしまえば学校を開いている意味も無くなるわけで、第壱中学は閉鎖された。
しかしそれも一時の話。終わってしまえば後始末をしなくてはならない。住人達はその為に荒れた街に戻るハメになった。何せ、市民のほとんどはネルフ関係者もしくは国連所属の職員だったので、あれだけのことの後にもかかわらず、ほとんどの人が街に戻ってきていた。
そして、人が戻れば学校も必要となる。幸運にも第壱中学は激戦地だった市街から外れた場所にあったので無傷だった。こうして学校も再開され、生徒達は何事も無かったかのように舞い戻り、通常通りの学校生活を送る事になった。
そうして今年も新入生が入学してきた。
去年できなかった分、今年こそは新入生歓迎会を開くのだと在学の上級生は張り切った。
……一部の者だけが。

渚カヲル。五人目のエヴァパイロット適格者“フィフス・チルドレン”にして使徒。
使徒戦役後に何気に人の中に紛れて暮らしていた彼こそ今年の新入生歓迎会の立役者だ。今回の新入生歓迎会の企画は彼がほとんど計画していると言っても過言ではなかった。
ただ、この計画、ちょっとどころではなくおかしなものだった。
その内容はといえば、カヲル自作の歌詞と踊り。
サンバのリズムの曲だったのだが、なんだか怪しげな歌詞なのだ。他の者は一時的に固まったのみで済んだが、シンジなどは猛烈な拒絶反応を表した。何せ歌詞中で自分の名が何度も何度もリフレインされているのだ。しかも、カヲルはそれに合わせてシンジと一緒に踊ろうという。
当たり前だが、シンジは全力で断った。
しかし結局シンジは出演する事となった。カヲルの計画に賛同する者達の猛烈な圧力に遭ったのだ。アスカもヒカリもトウジもケンスケも彼を裏切ってカヲルに手を貸した。クラスの女子などはバックダンサーとして出演するらしい。全員本気なのか、それとも面白がっているだけなのか判らなかったが、多勢に無勢であっさりシンジは陥落した。
しかし、さしものシンジもただでは転ばない。出演する際の条件に「カヲル自作の歌は歌わない」と条件を付けた。周りの者達は少し不満そうにしたが、でないとネルフ総司令である自分の父に頼んで第3新東京市から出て行くとまで脅迫した。普段、人に押され勝ちな少年だが、この時ばかりは窮鼠猫を噛むということわざどおり、シンジも必死だった。
カヲルの方はというと、意外にもこの条件を飲んだ。踊るのは免れないが、あの歌を大衆面前で歌わなくて済むだけマシになったと、シンジは胸を撫で下ろした。
その時も、カヲルはあいかわらずの不気味な笑顔を浮かべていたが……

「さ、シンジ君。今日は3パート目。行くよ?」

これで25回目のやり直しだった。
音楽室の中はカヲルが用意したサンバの曲がループで流れ続けている。
シンジは最近放課後になると毎日カヲルと一緒にこうして踊りの練習をしているが、いい加減、嫌気が差してきていた。
そもそもただの余興のはずなのに、どうしてこんなにリテイクを繰り返す過酷な練習が必要なのか、シンジにはさっぱり検討がつかなかった。

「それはね、君と息を合わせて踊りたいからさ」

カヲルはシンジの心中を読んだのか、さらりと言った。
息なんて合わなくてもかまわない、というのがシンジの本音だが、そっちの方は判っていないようだ。

「それはそうと……さ、カヲル君。あの歌は本番では歌わないよね?」

練習の度にシンジはカヲルに歌の有無の確認を取る。
何せこの踊りに付いていた歌の歌詞がシャレになっていなかったからだ。
『シンジカヲシンビバサンバ!(ウー!)』
こんな歌詞なのだ。これを本番で歌った日にはシンジはこの学校にいられない。

「歌わないよ。ほら? この前渡した譜面はと違うメロディーだろ?」

言われて見れば……
先日カヲルに初めて渡された歌詞や振り付けの紙には譜面も付いていた。
シンジは幼少の頃よりチェロを習っていたおかげで一応楽譜は読めるが、確かに今流れている曲はあの譜面に書かれていたメロディーとは違う。

「……ホントに、約束守ってよね?」

シンジは念を押した。

日もかなり暮れ、校内に最終下校時刻を告げる放送が流れた。
カヲルのスパルタレッスンもようやく終わり、シンジは疲れきって音楽室の床にへたりこんだ。
大昔のスポコン漫画ながらの練習は、普段身体を動かさないシンジには辛かった。何十回も繰り返されるリテイクに、シンジの身体から滝のような汗が流れる。スポーツの後の爽やかな汗ではない。嫌々参加している事なだけに、無駄な体力を使った結果の汗だ。気持ち良くない。
そろそろ帰りたい……シンジがそう思い始めた所へ、音楽室に近づいてくる足音が聞こえた。入り口の方を向くと、息を切らしたアスカがタオルとペットボトルを持って立っていた。

「やあ、惣流さん。ちょうど練習が終わったところだよ」

気付いたカヲルが百万ドルの笑顔で声を掛けるが、アスカはそれを無視し、シンジの側にやってきて膝をつく。

「シンジ〜お疲れ様ぁ。差し入れ持ってきてあげたわよ」

そう言って、へたり込んでいるシンジにスポーツドリンクとタオルを渡す。
アスカの優しい心遣いにひとときの安らぎを感じるシンジだが、よく考えてみればこういう目に遭っているのも彼女が一枚噛んでいるのだ。素直に喜べない。
シンジは膨れっ面でタオルとドリンクを受け取った。

「なによ、不機嫌ねぇ。私が尽くしてあげてるんだから、素直に喜びなさいよっ!」

「……誰のせいでこうなったと思ってるんだよ……」

場を和ます為にアスカは強気で軽く言ってみるものの、シンジの機嫌は直らない。逆に憎まれ口を叩かれる有様。ぶちゃむくれているシンジの顔を見て、アスカは少し気まずい気分になる。

「そりゃあ、反省してるけどさ……」

小声でアスカは呟いた。
彼女も最初はジョークか悪ふざけだと思ってこの企画に乗ったが、まさかカヲルがここまで本気だったとは思わなかった。何よりシンジを毎日練習に引っ張り出されるのは迷惑だった。最近シンジは帰りに買い物に付き合わないし、日曜日も疲れのせいで一緒に出かけたがらない。アスカとしても彼との時間を割かれてまでこんな馬鹿げた事をするつもりは無かったが、シンジに色々圧力をかけた手前、引くに引けられなかった。

「ま、まぁ、後一週間じゃん! がんばんなさいよ?」

アスカは一応の声援を送った。そんな彼女の言葉が白々しく感じたのか、シンジは深いため息を吐いた。

「もういいよ……それより帰ろうよ?」

もうこの場に一分一秒も長居したくないシンジは帰り支度をする為にヨタヨタと立ち上がった。
アスカもため息をついてシンジに合わせて立ち上がる。

「あ、待って。シンジ君」

カヲルが後ろから声を掛けてきた。

「何? カヲル君?」

「あん? 何よ? 練習終わったじゃん!」

「いやね、衣装の話なんだけどさ……」

「衣装おぉ?」

アスカがあからさまに嫌そうな声を上げた。

「そう、衣装。色々と用意してるんだけど……」

「あんたが計画してるんでしょ? あんたの勝手にすればぁ?」

これ以上付き合っていたくないアスカはいい加減な返答をした。

「ちょ……アスカっ! それは良くないってっ! とりあえず、話を聞こうよっ!」

何をしでかすか判らないカヲルにこれ以上何かを任せたくない。シンジは慌てて彼女をなだめた。
一方のアスカはそんな彼を即座に睨みつけた。

「ふふふ。二人とも、仲がいいねぇ」

二人の様子をカヲルは楽しげに眺めている。
シンジとアスカは彼の言葉に我に返り、そろって赤くなって……とはならなかった。
カヲルに言われると、普通の言葉もどこか不気味に聞こえ、背筋がゾッと冷たくなる。

「……カヲル君……」

「……あんたに言われると、なんか、キモチワルイ……」

二人して、嫌そうにつぶやいた。
だが、カヲルはさして気にも留めずに、そのまま話を続けた。

「まぁそれはいいとして、衣装の方はもう用意してあるんだけど見るかい?」

「え? 衣装? カヲル君が?」

シンジが訝しげな顔をする。

「ふふふ。ちょっと待っててね」

カヲルは音楽室の準備室へと入っていった。
シンジとアスカが顔を見合わせた。
彼の用意してきたものと言われると、ロクなものを想像できない。金色の着物だとか、テカテカメタリックプラグスーツだとか、そういうモノが出てきそうな気がするのだ。

「さすがに大丈夫……だよね?」

「さ、さあ……?」

しばらくしてから、カヲルが準備室から携帯用の衣装袋を二つと紙袋を一つぶら下げて出てきた。
二人は疑惑全開の目で見る。

「はい。これが今回の衣装だよ」

そう言って、カヲルは衣装袋のファスナーを開けた。
中から現れたもの。それは、真っ白いタキシードだった。
シンジとアスカが目を見張った。

「どうだい? なかなかいいだろう?」

カヲルが誇らしげな顔をする。
もっと変なものを想像していた二人は彼の意外さに驚いた。
少し派手かもしれないが、思っていたよりはずっとまともだ。

「へぇ。あんたにしちゃあ結構上出来……」

「あ、これの下に着る物も用意したんだ。ネルフの技術部に特注してね……」

アスカが言いかけたところでカヲルが口を開き、一緒に持ってきていた紙袋からなにやら取り出した。

「ほら? どうだい?」

カヲルが袋から取り出したものは、やはりろくでもないセンスだった。
手の中にあったのは、七色の印象派的カラーリングをした趣味の悪いプラグスーツ。
しかも、金銀のラメが入って輝いている。
シンジはその場で倒れそうになった。

「これをタキシードの下に着て僕とシンジ君が……」

「却ッッ下っ!!! 着るならあんた一人で着なさいよっ! シンジ行くわよっ!!!」

アスカは即座に切り捨てて昏倒しそうなシンジを引っ張り上げ、音楽室を出た。

アスカは歓迎会まで残り一週間、シンジを一回も新入生歓迎会の練習に出させなかった。
カヲルが誘いに来ても、学校が終わればアスカは構わずシンジを連れ帰った。シンジの方はというと、そんなアスカに付き従った。何せカヲルのあのセンスである。付き合いきれなくなっていたのは確かだった。

「アスカぁ〜。碇君をちゃんと練習させなきゃダメじゃないの!」

「いいのよっ。所詮、悪ふざけなんだからっ」

シンジを連れ帰るアスカをヒカリは注意したが、彼女はそれを軽く突っぱねる。
ヒカリは生真面目ではあったがこの計画については元々乗り気でもなければ本気でもなかったので、それ以上は何も言わなかった。

「なんや、練習せんのかぁ?」

「みたいだなぁ〜」

シンジの手を引っ張って連れ帰るアスカの後ろ姿を見ながら他人事のようにトウジとケンスケが呟く。
彼らも事態の新鮮味が無くなってきた為か、あからさまにやる気の無さを顕にしていた。みんながみんな、既に辞退したい気満々なのだ。だが、あれだけ派手に校内で告知した手前、引くに引けなくなっているのも事実だった。もう、当日を適当にやり過ごす事しか考えていない。
結局、張り切っているのはカヲルと彼の周りに集うバックダンサーの少女達だけになっていた。

そうして訪れた新入生歓迎会当日。朝早くから葛城邸はバタバタしていた。
アスカは普段、何人たりとも入れない自分の部屋に、珍しくシンジを招き入れた。

「ほら、これっ! 用意しといてやったわ!」

貸衣装屋に急遽依頼し、夕べ届けさせた社交ダンス用の黒いタキシードをシンジに渡す。
アスカから姿見を借りて衣装を合わせてみる。

「これも……ちょっと派手じゃない?」

シンジは少し眉を顰める。

「ダンスだからいいのよっ! 制服だともっとおかしいわよっ?!」

アスカはシンジの不満をあっさりと切り捨てた。

「それと、これもっ!」

シンジの頭に紺色の合成皮脂で出来たものが投げつけられる。

「ぷわっ!? 何だよこれ…って、プラグスーツ?」

見覚えがある。シンジがパイロット時代に身に着けていたものだ。

「あのバカ、タキシードの下に極楽鳥か七面鳥みたいなプラグスーツ用意してたでしょ?
あんた、舞台でアイツにタキシードを引っぺがされた時の為に着てなさいよっ!!」

有り得ない話ではない。シンジは二揃いのスーツを抱えて深いため息をついた。

そして新入生歓迎会本番直前。
舞台には出演しないケンスケ、トウジ、ヒカリが大道具係としてカヲルの指示通りの場所に道具を配置していた。
トウジはスポットライト担当、ケンスケは音響担当でスピーカーから曲を流す役割だ。
二人ともほとんど打ち合わせらしき打ち合わせはしてなかったが、かたや、指示通りにすればええわ〜といういい加減さで、かたや時間通り曲流して、指定されたタイミングで効果音を出せば良いというお気楽さだった。
ヒカリはメイクと衣装担当。バックダンサーである女の子達の着付けの手伝いをしていた。サンバなのに女の子たちは着物のような衣装で、生地の配色が七色でけばけばしく悪趣味だった。そんな彼女達の衣装にヒカリは吐き気をもよおしていたが、カヲルの企画書がそうなっているから仕方が無い。
そしてアスカはというと、企画補佐という名義で舞台の横からシンジの様子を見守っていた。本番では何もする事のない役割だが、(本番以外でも特に何かしていたわけではなかったが)関係者という事で舞台の裏側にいることを許された。と、いうよりも、カヲルが暴走しないかの見張りを任されたというのが正解だろう。

体育館の舞台裏では二人の少年と、バックダンサーの少女達数十名が本番待ちで緊張の面持ちで控えていた。なかにリラックスしていた者も若干一名程いたが、彼の場合は仕方ないだろう。
カヲルはこの間シンジとアスカに見せた白いタキシードを身に着けていた。その下に身に着けている物に関しては、シンジもアスカもあえて追求しないでいた。
シンジの方はというと、アスカの用意した黒いタキシードだった。白黒でカヲルとコンビネーションになっているのは偶然の一致である。中に着ているプラグスーツに関してはアスカの予測どおりにカヲルが本番舞台でシンジのタキシードを脱がすという暴挙に走らない限り御用は無いのだが、相手が相手なだけに、そうならないとも限らない。
シンジは舞台裏で微笑んでいるカヲルを横に、慣れないタキシードとその下に着たプラグスーツの着心地の悪さに眉を寄せつつ、悪夢のような本番を待っていた。

定刻――

カヲルがシンジに声を掛けた。

「行こうか」

「うん」

第壱中学第10回新入生歓迎会

Kaworu Nagisa Produce

男子絶唱祭

伴奏のイントロ部分が流れ出す。
バックダンサーの少女達(通称:渚のダンサー)が両手を上にあげ、リズムに乗りながらステップを踏んで踊り出る。
シンジとカヲルが手と手を取り合って(シンジは嫌そうにしていたが)その後に続いた。
二人の姿が舞台に現れた時、新入生達からどっと拍手が起こった。
イントロに合わせて少女たちは左右にステップした後、左右に回転する。
シンジとカヲルも彼女達と同様、リズムに乗りながら左右のステップを繰り返す。
そして、曲がもう直ぐAパートというところでカヲルが自分のタキシードの懐から素早く何かを取り出した。

「え?」

一瞬、シンジは自分の目を疑った。カヲルが懐から出したものがマイクだったのだ。
シンジは彼がくだんの歌を本番で歌わないのを固く約束し、それを条件に共演を了承した。
じゃあ何故、マイクを持っているんだ?
シンジが疑問に思っている間にAパートが始まった。
すると、いきなりカヲルはマイクに向かって歌いだした。
一緒に踊っていたシンジが唖然となる。

『カヲシンサンバII』 作詞:渚カヲル

歌えリリン響けサンバ
踊れ未来のチルドレン
誰も使徒も浮かれ騒ぎ
光るフィールドはじきとぶ

カヲルはにこやかな顔をして歌う。そう、カヲルは二つ目の歌も用意していたのだ。
しかも、バックダンサーの少女達も合わせて歌っている。どうやらシンジの知らない間に練習していたらしい。
飽く無きカヲルの歌への執念に、シンジの顔が青くなる。

青い風に体あずけ
心ゆくまで踊れば
使徒も歌うよ愛のサンバを
胸にあふれるこのリズム

音響をしていたケンスケが突然の事態で戸惑った。
たしかにマイクの指示はあったが、こんな風に使われるとまでは思っていなかった。
カヲルの歌声は、鼻に掛かっていて甘ったるく、自己陶酔しきったものだった。
そのせいか、聞いている者の背筋がゾクゾクと冷たくなるような、嫌な響きをしていた。

「アイツ、酔っ払ってるんじゃないのか?!」

ケンスケは歌声に耳を塞ぎたい衝動に駆られた。

オーレオレ カヲシンサンバ
オーレオレ カヲシンサンバ
あぁ恋せよタブリス
踊ろうセニョール
正気さえ忘れて踊り明かそう
サンバビバサンバ
カ・ヲ・シ・ン サンバ オレ!

甘い歌声と共にビシっとポーズを決めるカヲルと、舞台で浮かないために決めざるおえないシンジ。
その瞬間に見せたカヲルの表情は、完全にイッてしまっているようだった。
シンジの手を取った時などは恋人を見るような目つきになっていて、男色家的な印象すらした。
笑顔からはこぼれんばかりのナルシズムを撒き散らし、まさに、妖しさ全開であった。

「ホモとちゃうんかぁっ?!」

「ふ、フケツよぉぉぉぉ‥‥」

スポットライトを操作していたトウジは顔をしかめ、ヒカリは髪を振り乱してイヤイヤしていた。
しかし、歌は流れていく。

歌えリリン響けサンバ
踊れ未来のチルドレン
夢のように時は過ぎて
はずむネルフの恋の夜

「ナニよ、アレぇぇぇ?!」

舞台を見守っていたアスカが口をあんぐり開けたまま、固まる。
まさか、土壇場にこんな暴挙に走るとはさすがの彼女でも思いもよらなかった。本番の下級生のいる前でシンジを舞台から下ろせないし、かといってアスカが踊り出て止めるわけにもいかない。そんな事をしたら下級生はおろか、在学生全員に卒業までからかわれ続けるに決まっている。
何より、今日、今の時点でこの狂宴が学校の伝説になったのは確実だ。
アスカは笑顔で踊っているカヲルへ憎々しげにガンを飛ばした。

華々しい舞台の上では真夏の日差しのようなスポットライトが当たり、うら若き乙女達が華麗に舞っている。あまりにもの歌詞と体をくねらせる踊りに、下級生達は手を叩いて馬鹿笑いをしながら喜んでいた。
下級生の笑いのさなか、シンジは泣きそうになりながら踊った。
シンジも本当は逃げ出したかったのだが、ここで焦って変な動きをするのはからかわれるネタの提供にしかならない。これ以上の醜態を晒さない為にも彼は黙って最後まで踊らざるおえなかった。
間奏に入ってカヲルがシンジに微笑みかけてきた。

裏切ったな…! 僕の気持ちを裏切ったな!

シンジは声に出来ない叫びを上げた。

赤い瞳輝かせて
愛をささやき踊れば
白い渚に恋も輝き
僕に誘われ歌いだす

カヲルが白いタキシードを脱ぎ捨てた。その下から現れたのは七色のラメが輝く特注プラグスーツ。
観衆たちはどよめき、シンジは大声を張り上げて絶叫しそうになった。
ライトに照らされ、七色のプラグスーツをキラキラと輝かせて、カヲルが観衆に笑顔を振りまく。
下級生の中で、男子諸君は笑い転げ、女子生徒はあまりの恥ずかしい格好に両手で目を覆う。
さらに、カヲルはシンジのタキシードを脱がせようと襟元を掴む。
まさに予測通りだったが、いくら下にスーツを着ているとはいえ、シンジはこれ以上恥をかきたくない。
脱がされまいとシンジは身を丸くして我が身を死守する。
だが、それも逆効果だった。
一部の少女たちにはシンジが脱がされないようにがんばる姿が恋人の求愛に恥じらってイヤよイヤよとしている乙女のように見えたらしい。まるで我が事のように襲っているカヲルと襲われているシンジに黄色い声援を送り、転げ回った。
まさに、少年同士の痴態があらわになった狂宴だった。

オーレオレ カヲシンサンバ
オーレオレ カヲシンサンバ
あぁ恋せよタブリス
踊ろうセニョール
正気さえ忘れて踊り明かそう
サンバビバサンバ
カ・ヲ・シ・ン サンバ オレ!

曲が終わり、最後に決めポーズを取るカヲルとシンジ。そしてバックダンサー一同。
狂宴は、終わった。体育館内から凄まじい歓声と拍手が沸き起こる。
シンジはカヲルにタキシードを半分脱がされ、くしゃくゃに乱れた格好をしていた。憔悴しきった顔をして、舞台の横に居たアスカに哀れっぽい視線を送る。
その視線に気が付いてはいたが、気まずそうにアスカは視線を逸らす。
トウジもケンスケもヒカリも真っ白に燃え尽き、口を開けたまま突っ立っていた。

歓声は今だ続いているが、カヲルとバックダンサー以外で今日の計画に絡んだ関係者は全て、彼の変人っぷりにすっかり毒気を抜かれて聞こえてない。ただただ呆然としているだけだった。
……ただ一人を除いては。

「カ、ヲ、シ、ン サンバー オー……」

この企画で一番何もしなかったレイだけが、感極まった様子で目を潤ませながら、一人で歌を口ずさんでいた。

新入生歓迎会は一応の成功らしきものをおさめたが、同時にこの第壱中学において別の意味で伝説となったのは言うまでも無いことだった。カヲシンサンバとカヲシンサンバIIは校内で密やかなブームとなり、皆が彼の振り付けを覚えようと必死になった。
と、同時に、渦中の人だったカヲルとシンジは伝説の二人として在学生全員から後ろ指をさされ続けた。

「あ、カヲシンだ」
「カヲシンが来たぞー」
「まじー? あ、ホント。カヲシンだ」

と、言われる度にシンジはこの学校から逃げ出したい気分に陥った。
当然ながらカヲルとはほとんど「友達やめます」状態だったが、偶然に並んで歩いていただとか出くわしたとかいうだけで生徒達からは「カヲシン」というようなセット扱いだった。
カヲルの方はというと、その事を気にしてなければシンジと友達をやめたつもりも無いようだった。歩く時はいつもバックダンサーだった少女達を従え、シンジがどれだけ嫌がろうと図々しく付きまとっていた。カヲルの周りをはばからない堂々とした態度に、決定的瞬間を撮影しようとケンスケ張りの盗撮技術を磨く一部の女子が現れるほど下級生から二人の仲は公認済みになってしまっていた。
トウジやケンスケ、ヒカリなどはそんな彼から巻き添えを食いたくないが為、シンジとカヲルの周りに近づかなくなった。
ただでさえ友達の居なかったシンジは、さらに友達を減らすハメとなり散々だった。
(余談だが、レイだけは他の者たちと違い、盗撮少女部隊からカヲルのブロマイドを高額で購入していた)

結局、シンジは唯一相手にしてくれるアスカへ、狂宴の強制参加に加担した恨みをブツブツと言う毎日が続いた。

「はぁぁぁ。そうそう、あんたは苦労したのね。大変だったのねぇ……」

「……みんなが悪いんだよ〜〜アスカだってそうだし〜〜」

「はいはいはいはい」

ネチネチと言うシンジに、アスカは生返事を返す。
学校帰りに日課の如く繰り返される愚痴を、アスカは甘んじて聞くしかない。
シンジはそんなアスカにひたっっっっすら愚痴を垂れ流す。

「…転校しようかな……別に好きでこの街に来たわけじゃないし…」

「……ああああああっ!!!反省してるってばぁ!!」

「カヲル君と変な仲だと誤解されてるし……僕はもう女の子から普通に相手してもらえないよ……」

「ああああ、判った、判ったってば!!」

「ううう、指差される……視線が痛い……」

「あああもう! 判ったわよっ! 責任取りゃあいいんでしょおっ!!」

と、まぁ、少々彼女の願望も混じってはいたが、アスカが責任を取るという形で二人はなし崩し的に付き合う事になった。

そして、数ヶ月後。
新入生歓迎会で散々騒がせたメンバーはまたも学校行事の実行委員会に無理やり抜擢された。
召集された一同は、新入生歓迎会以上のやる気の無さをあらわにしながら出席していた。

「今度の学校祭ね、演歌でリサイタルなんてどうだい?」

そう、カヲルが企画を提示してきたが、さすがに今回は誰も乗らなかった。

これが後に、「男子絶唱祭」として語り継がれることになる狂宴の顛末である。

後にカヲルが学校祭当日に「カヲルのズンドコ節」を出して一人で歌い、無駄に伝説を増やしたのは、また別のお話。

終わってます

初稿: 2006/05/03 Writer: AzusaYumi / Proofreader: Prof. North


うっかり書いてしまいました。
…ああっ!!石、石を投げないで下さいっっ!!
まさに人の迷惑を顧みない作品ですね。…すいません、反省してます。
こんな悪ふざけに付き合ってくださった三只様、
このおふざけへ校正や手入れで手伝ってくださったnorth様、
読んで下さった読者様に感謝を。ありがとうございます。
AzusaYumi








あずさゆみさんから、前後編の投稿作を頂きました。
本当、良い意味でアレな作品で、大変楽しめました。
カヲルと絡んでかつLASとなるとイロモノに走らざるを得ないわけですが、方向性といいセンスといい飛び抜けてますね。
しかも、カヲシンサンバとは…ステキすぎます(笑)








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