夫婦誕生
 





















「あ〜もういい加減、うざったいわねぇ」

暮れなずむ学校からの帰り道。

一組の高校生カップルと思しき女の子のほうが、怒声に近い声を上げる。

夕日に照らされるまでもなく、赤い髪をしている少女。その顔の造形はハッとするほど美しい。

「そんなこといったって、無下に処分するわけにはいかないだろ、アスカ」

少女をたしなめたのは隣を歩いている少年。少女より頭が半個分ほど高く、なかなか繊細な容貌の持ち主だ。

「ふん。こんな事するだけ資源の無駄だってことに、気づかないものかしら? 」

少女―――惣流・アスカ・ラングレーは憤然と胸を反らすと、少年―――−碇シンジが持っている大きな紙袋を睨みつける。

中味は、アスカ宛のラブレターばかりであった。

「うーん、どうだろうね…」

アスカの問いに曖昧に答えながら、シンジは思う。

ホントに凄い量なんだよな…

アスカが毎日学校で貰うラブレター。

誇張抜きで彼女の下駄箱から溢れ返っているそれを、貰い主は即座に処分しようと試みるのだが、いつもシンジに止められる。

いくらなんでも、すぐゴミ箱にポイじゃ、送り主が可哀想すぎるよ。

それがシンジの言い分で、アスカも渋々それに従う。

それでも、学校からの帰り道、どこかのコンビニのゴミ箱やゴミ捨て場に大量遺棄されるため、寿命はすこぶる短い。

更に、彼女もそれらの手紙に目を通すことはおろか、開封したことすらなかった。

その理由を問われると、 「あたしには、シンジしかいないのよ」

類稀な美少女とすら形容できるアスカからそう言われると、シンジとしては有り難くもあり誇らしくもあったが、心の奥で良心がささくれだってるのも自覚せざるを得ない。

アスカに向けられる他の人たちの真摯な思いは、どうなるだのだろう?

大量にラブレターを捨てる度にシンジは考える。

かといって、アスカを誰かに譲る気なんて更々ないわけだし、うっかりこのような後ろ向きな思いを口にしようものなら、当のアスカに叱責、叱咤、果ては折檻までされる。

「だったら、あんたがあたしに相応しいと思われる人間になればいいのよ!! 」

彼女はそう断言する。

「でも、今のあんたが一番気に入ってるんだけどね」

そう付け加えるあたりが彼女の優しさでもあり、照れ隠しに包まれた本音でもあった。

「今日は、アスカが夕食作ってくれるんだっけ? 」

良心の疼きをねじ伏せて、スーパーのゴミ箱に紙袋ごとラブレターを捨てながら、シンジが訊ねる。

「そうよ。腕によりをかけるからねー」

そうして二人はスーパーへと入る。

二人で食材を買い揃えるのもいつものこと。

その買い物中の雰囲気は、もはや高校生カップルのものではない。若夫婦という形容がピッタリだ。

それもそのはず、彼らは珍妙な同棲を重ねて早2年以上が経過していた。

最初は作戦の一環として10日ほど。

そのまま惰性で数ヶ月。

そして一時の別離こそ経たが、あとは二人の意志で同棲を続けている。

互いの良いところ嫌なところも知り尽くしているだけに、その絆は深い。

何故に珍妙なのかと補足すると、もう一人同居人がいるからである。

その同居人、三十路も過ぎた家事無能力者について、あえて言及すまい。

「あっ、そうだ、お米切らしてたんだった。…ごめんシンジ、先にお米屋さんで注文してきてくんない? あたしはレジ済ませておくから」

「うん、わかった」

シンジが先にスーパーから出ていく。

彼が出ていったのを確認してから、アスカはレジでなく売場にとって返し、別の食材や、薬局エリアで薬を購入する。

彼女がほくそ笑んでいるように見えるのは、気のせいだろうか?

それでも、十分後には、米袋を抱えたシンジと一緒に帰路につくアスカであった。















「ふう、美味しかったよ、ごちそうさま」

食卓のシンジは笑顔を向ける。

「おそまつさま」

アスカは微笑みながらシンジの前の空き皿を流しへと運んでいく。

今、キッチンでのやや遅めの夕食が終わったところであった。

何故に遅くなったのかというと、家主である葛城ミサトの帰宅を二人が待っていたからである。

しかし、ミサトの予想帰宅時間を一時間ほど越えたところで電話が入り、急な仕事が入ったとかで、彼女は夕食をキャンセル。

二人っきりの晩餐と相成ったわけであった。まあ、よくある話である。

「じゃ、後片づけもあたしがしておくから、シンジは先にお風呂にでも入っちゃってね」

「うん、ありがと」

シンジは浴室へと向かう。

今日のアスカは随分と機嫌がいいんだな。

服を脱ぎながらシンジの頬に笑みが浮かぶ。

アスカの機嫌がいいと、彼も嬉しい。

まあ、彼女の機嫌の良い理由が思い浮かばないのは、ちょっとだけ不安ではあったが。

一方アスカは、シンジが入浴しているのを確認すると、後片づけの手を止め自室へと向かった。

扉を閉ざし、携帯電話を操作するアスカ。

「はい…………で……ええ…………です」

ボソボソと喋っている。相手は誰なのだろうか?

電話を終えると、彼女は机の引き出しから手帳を引っぱり出す。

そして月間スケジュールを眺めて、ニヤリとした。

照れたような恥らうような、それでいて邪悪とさえ思われる笑顔を浮かべ、ポツリと呟く。
やっぱりXデーは今日しかないわよねぇ…。
しかし、一瞬で表情を改めた。

次に彼女の顔に浮かんだのは真剣そのもの。

アスカ、行くわよ…!!















入れ違いにアスカが浴室へ入ったのを確認し、シンジは自室へと向かった。

だいたいは食後の二人は一緒にリビングへといるものだが、アスカが入浴しているうちに、シンジは私事を済ませてしまう心算だった。

自室へ入ると学生鞄を開ける。

中から取り出したのは、彼宛の数通のラブレター。

アスカほどではないにせよ、シンジも結構モテるのである。

シンジはしばらくそれらを勉強机の上に並べて溜め息などをついていたが、結局封を切ることはなく、机の一番下の引き出しを開けると丁寧にしまい込んだ。

その引き出しは未開封のラブレターで溢れんばかりである。その3分の1の差し出し人が「渚カヲル」であったとしても。

捨てられないよな…。BR>
どこか寂しげに呟く。

どちらにしろアスカに見られれば事である。かといって処分する気にもなれないでいる彼であった。

不意に疲労感に襲われたシンジはベッドの上に横になる。

ふう……。

口をついて出るのは溜め息ばかり。

ぼんやりと思い出す。




アスカと交際宣言をしているのに、相変わらず届けられる大量のラブレター。

原因は、やっぱり僕にあるんだろうか?

そりゃ、アスカと比べたら、見劣りするだろうし。

僕が変わるしかないのかな。

アスカがいうように、僕がもっとアスカに相応しいと思われるようになれば。

そうすれば、アスカにもラブレターも来なくなるんだろうけど…





シンジがそんな事を考えていると、不意に部屋の電気が消える。

「シンジ…」

彼が驚くより早く、部屋の入り口から声がかけられた。

「アスカ? 」

シンジは上体を起こそうとする。

あれ? なんだろう、身体が重い…。

それでもなんとか首を起こして声の方向を見つめ、彼は絶句した。

そこにはタオルを巻いただけのアスカが立っていた。むき出しの肩と太股が、廊下からの灯りに照らされて、生々しく輝いている。

「どうしたの、アスカ? そんな格好じゃ風邪ひくよ」

シンジは微かな違和感を覚えつつ声をかける。

彼女はよくこの格好でうろつくが、このままの姿で彼の部屋を訪れることはなかった。

「……」

アスカは無言で部屋へと入ってくる。

「ちょ、どうしたんだよ、アスカ!? 」

そういってシンジは身体を動かそうとしたが、出来なかった。

「!? 」

さすがにシンジも違和感の正体に気づく。

身体が殆ど動かないのだ。指先だけがわずかに動く。

アスカが無言で近づいてくる。逃げられない。

気がついた時には、彼の目の前にアスカの顔があった。

…こんなに奇麗だったっけ?

部屋に差し込む月明かりのもと、シンジは改めて目前へと迫った少女の顔を見直す。

むろんアスカが他に類を見ない美少女だというのは承知している。多少シンジの偏見を割り引くにせよ。
 
しかし今の彼女は、その、なんというか、艶めかしい。

シンジは頭の奥が熱くなっていくのを自覚した。

対するアスカの真珠のような唇がゆっくりと動く。

「ふふふふ…、シンジ、動けないでしょ? 」

浮かべられるは、あまりにも蠱惑的な笑み。

「う…うん」

ドギマギしながら返答するシンジ。

「でも、喋れる。分量は完璧だったわね」

「分量…? 」

そこで、シンジははたと思い至った。

「…まさか夕食に何か入れたの? 」

今日の夕食当番はアスカ。細工をする機会はいくらでもある。

「ピンポーン♪ 喋れる程度に薬を加減するのは、難しかったんだから」

アスカは身をよじる。バスタオル越しに豊かな双胸もよじれる。

瞬間的に赤面するシンジ。それが目前で展開されるのだからたまらない。

「な、なんでこんなことをするんだよ…」

シンジが訊ねる。こころなしか呂律の廻りも悪い。

実際、彼は困惑しつつも怒っていた。

アスカのやっていることは、あまりにも一方的で強引すぎるじゃないか!!

しかし、当のアスカは涼しい顔をしている。さも自分がやっていることの正当性を誇示するが如く。

「ふふ〜ん。知りたい? 」

更に迫るアスカの顔。

「う、うん」

シンジは必死で下がろうとする視線を持ち上げる。

アスカの魅惑の胸の谷間は彼の視線を引きつけてやまない。まあ、健康的な男子としては当然の反応だろう。

「うふふふふ…。教える前に、これに名前と判子ちょうだい?」

そういうとアスカは胸の谷間から一枚の紙片を取り出す。

「…!! 」

その仕草にすらシンジは血圧を上げた。

目の奥さえも痺れるのを自覚しつつ、幾つにも折り畳まれているらしい小さな紙片に視線を落とす。その空欄の部分に、名前を書いて判を押せと?

「…一体なんなんだよ、これ」

「ひ・み・つ。…でも、ここに名前を書いたら、シビレ薬の解毒剤を上げるわ」

僕はシビレ薬を飲まされたのか…

シンジは、アスカの提案を吟味する。

アスカの目的はなんだ?

単に紙片に名前を書かせるだけなら、裸で迫ってくる必要はないはずだ。

最初に口にしている通り、彼女は何か別の考えかあるに違いない…

そこまで考えて、シンジは愕然とする。

どちらにしろ、自分に選択権などない。

紙片に名前を書く事によって、アスカの本来の目的を先延ばしにするか、書かずに、アスカ本来の目的を実行されるか。

「書くよ…」

こうなれば、無駄と知りつつも抵抗するしかない。ひょっとしたら、解毒剤をもらうまでもなく、薬の効き目が切れるかもしれない。

「そお? 」

アスカはにっこりと微笑む。

またもや胸元から出してくるボールペンと小さな朱肉入れ。

「はい、この欄に、はみ出さずに書いてね」

アスカが震えるシンジの手にボールペンを握らせた。

シンジは書こうとするが、指先にもシビレがきているらしく、上手くいかない。

「無理だよ、アスカ」

「しょうがないわね、手伝ったげるわ」

アスカのしっとりとした手がシンジの指を支える。

そしてどうにかミミズがのたくったような筆跡で、「碇 シンジ」と空欄に書き込まれた。

「じゃ、次は判子ね」

アスカは喜々としながら、シンジの親指に朱肉を押しつけると、紙片の名前の後の部分へと押しつけた。

「これでよし」

満面の笑みを浮かべるアスカの顔も、今のシンジの目には入らなかった。実は、嬉しさのあまり飛び跳ねる彼女の身体から、バスタオルが落ちやしないかと、気が気ではなかったりする。

「さて、じゃ、解毒剤をあげなきゃね」

そして三度胸元に手を入れるアスカ。

豊かな双丘の間から引き抜かれた白い指先には、カプセル剤がつままれている。

おそらく、これが解毒剤だろう。

アスカはそれをシンジの目前でちらつかせる。

「ほら、飲んでいいわよ」

「…飲めるわけ、ないだろ」

声を絞り出すシンジ。指先までしびれ始め、曲げることすらできない。

アスカは今度は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「じゃ、飲ませたげるわ」

アスカはやおらカプセルを口に放り込むと、シンジの唇へと自らのそれを押し当てた。

シンジは当然避けられない。

微かな甘味とともに、カプセルが嚥下される。

この間、シンジは顔を真っ赤にし目を白黒させるばかりだ。

アスカとのキスこそ幾度となく経験しているが、口移しなどをされたのは初めてだったせいもある。

そんなシンジの頬をアスカはつつく。

「やっぱり、あんたは果報者よね。こんな可愛い娘をモノにできるんだからさ…」

急にしんみりとした口調になるアスカ。

「アスカ…?」

その真剣でどこか寂しげな表情に、シンジの頭も急激に冷めていく。

「どうして、あたしは、シンジのことこんなに好きになっちゃったの? 」

ブルーアイズが真っ直ぐシンジを見つめる。

その視線を受け止めるシンジ。

すぐ目の前にアスカの顔がある。

大きな青い瞳の中には、自分自身がいた。

アスカの白い手が頬を撫であげ、頭髪を梳いていく。

「いつから好きになっちゃったのかな? 火山で助けられたとき? それとも初めてキスした夜…?」

両手がシンジの頬を包み込む。

そして再び唇が重なった。

二度三度と繰り返される、ついばむようなキス。

二人とも、あまりにも真摯な表情をしているため、それは神聖な儀式にすら見える。

「…僕には、解るよ、アスカ」

シンジもアスカを見つめ返した。

「キミに初めてあったその時から。多分、その時から、キミのことが好きになりはじめていたんだと思う」

「………」

アスカは優しい瞳でシンジを見ている。

「アスカは…僕にないものを全部持っていたんだ。強くて、頭が良くて、自信に溢れて…とても眩しかった」

二人の記憶が等しく遡っていく。

太平洋上での対面。

半ば強引に始められた同居生活。

初めての二人きりの夜。

どこかすれ違ったまま重ねられていった二人の時間。

そして―――。




不意にアスカの瞳から涙が零れ落ちる。

「…アスカ? 」

吃驚し、心配そうに声をかけるシンジ。

「……なの」

「? 」

「……やなの」

アスカは顔を伏せて肩を震わせているなお零れ落ちる幾粒もの涙。月光を受けて輝く小さな宝石。

「アスカ……」

シンジはアスカの肩に手を伸ばそうとして、出来なかった。まだシビレは取れていない。

「嫌なのっ!! 」

アスカが顔を上げ、叫んだ。

「嫌なのっ、あんたがあたし以外の人に微笑むのも!! あたし以外の人からラブレターもらうのも!! あたし以外の人から見つめられるのも、全部嫌なのっ!! 」

「………!!」

アスカは叫ぶ。瞳からはとめどめもなく涙が零れ続ける。

激しい告白の後は一転して沈黙が二人を支配した。

わずかにアスカがしゃくり上げる音と、上下する彼女の肩が微かに夜気を震わせるのみ。

「アスカ……僕だって、そうだよ」

シンジがようやく口を開く。

アスカの激しすぎる告白に圧倒されてしまっていたが、落ち着くと、喩えようもない高揚感が胸中を満たしていくのを自覚している。

嬉しい。

それこそ胸の奥から焦がされるほどに。

「……ホント? 」

アスカが涙に濡れたままの上目使いで訊ねてくる。

「本当だよ」

シンジは断言する。天地神明に誓って、この言葉に嘘偽りはない。

「じゃあ……お願いがあるの」

アスカは微笑む。 薄闇の中でも、太陽の光を連想させるような笑みで彼女は言った。





「子供作りましょ?」





「……はあいいいいいいいいいい!? 」



素っ頓狂な声を上げるシンジ。

「だってー、あたしたち交際宣言してるのに、まだラブレターとかデートの誘いがあってうざったいじゃないの。いっそのこと子供作っちゃえば、もうあたしたちにちょっかいかけてくるヤツはいなくなるでしょ? 」

にこにこしながら言うアスカ。口調と裏腹に目は限りなく本気である。

「そんなこといったって、僕らは高校二年生になったばっかだし、何よりまだ一度も…」

シンジはしどろもどろである。

「ダメ? 」

「いや、ダメじゃないけど、まだ早すぎるよ! っていうか順番も違うし…!」

シンジも健康な男性である以上、当然それらに対する欲求は存在する。

アスカが挑発的なそぶりを見せることがあったのも、いくら鈍感な彼でも知っている。

だが、シンジは積極的に事に及ぼうとは考えてなかった。

肌を重ねることによってアスカとの関係が変わってしまうような予感があったのか、はたまた単に臆病の為せる業なのかは定かではない。

ただ、アスカを大切に思う気持ちに嘘偽りはないし、世界中の誰にも負けないと自負はしている。

しかし、いくら何でも今回のアスカの申し出は唐突すぎた。

交際→結婚という流れを一足飛びで子作りである。

「…嫌なんだ」

アスカが寂しげに呟く。

「いや、ホントそういうことじゃなくてね…」

シンジはシビレが抜けないのを疎ましく思う。

今手足が動けば、アスカを抱きしめて慰めることができるのに。

そして優しく諭すことができるのに。

「じゃあ、あたしがこれから3つ質問するわ。それに答えて。それでも駄目なら、諦めるわ…」

しばらくして、アスカが言った。

「…うん、わかった」

シンジは素直にうなずく。今の彼に出来ることは限られているのだから。

あるいは、ここまでアスカの予想通りかも、という考えも浮かんだが、彼女の表情が真剣なことには変わりはない。だとしたら、真剣に答えなければ。

「それじゃ一つ目。…シンジはあたしのことが好き? それとも嫌い? 」

「好きに決まってるよ」

シンジはすかさず断言する。面向かって肯定するとちょっと恥ずかしいのは仕方ない。

「じゃあ、あたしのこと、好き? 大好き? 」

「う、うん、大好きだよ」

シンジはまたしても力強く断言する。

「最後よ。…あたしのこと大好き? それとも愛してる? 」

「え!?」

咄嗟にシンジは返答出来なかった。

アスカは黙って見つめてくる。その瞳の奥には微かな恐怖が見て取れた。

シンジも静かにアスカの瞳を見つめ返す。




僕は………





「……うん。愛しているよ、アスカ」

途端にアスカは破顔した。



「じゃ、子作りに問題ないじゃな〜い♪」




なんでそうなるんだよ!! と絶叫しかけたシンジの顔の上にアスカの豊かな胸が被さる。

バスタオル越しとはいえ、その弾力の中に埋まるシンジ。

たちまち血液が頭に逆流、意識が混濁し始める。

そして素晴らしい弾力は顔を撫でつつ降下していく。

アスカは真っ赤な顔をして混乱しているシンジを見やる。

「あ、言い忘れたけど、解毒剤が効いてくるまで、あと十分くらいあるから」

「そんな…卑怯、だよ…」

ドクン

更にシンジの身体を異変が襲う。

何か、身体の芯がカーッと熱くなってくる。

「な、なんだ…? 」

熱が腰の辺りに集まってくる感覚に戸惑うシンジ。

「あら、ようやくそっちの方も効いてきたみたいね」

アスカは嬉しそうな声を出す。

「まさか…他にもなんか入れてたの? 」

「そうよ。強壮剤のブレンドもの、AA(ダブルエー)スペシャル。レシピは内緒♪」

得意そうなアスカに対して、シンジは黙ったままだ。身体はシビレているのに体内で熱が渦を巻いている奇妙な感覚が彼を支配している。うっかり気を弛めると理性が吹っ飛びそうだ。

「ふふふ…もう、覚悟を決めなさい」

シンジは歯を食いしばる。目を閉じることができても、耳をふさぐことはできない。アスカの声すら官能を刺激してくる。

「ううう……逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…って違うー!! 」

バスタオルがアスカの滑らかな肌を滑って落ちた。

「シ〜ンジ…?」

アスカの甘美な声。この世で最も甘く危険な凶器となって、シンジの脳を貫く。

誘惑に屈し、開かれたシンジの瞳。次の瞬間更に大きく見開かれ、彼の口からは意味不明の言葉が飛び出す。

「×○%#@$*¥・・・・!!!! 」

アスカは一糸まとわぬ姿でシンジに抱きついた。

「さあ、シンジ、子供作りましょ!! 」








その夜、コンフォートマンションの一室に、長い長い悲鳴が木霊した。…………途中から形容しがたい声に変わったりしたが。









碇シンジ、轟沈。

17歳の、桜咲く4月の夜の出来事である。









続く