HOUSE5:めりーめりー












































鼻歌でジングルベルを奏でながら、アスカはリビングのクリスマスツリーの飾り付けに没頭していた。

「ふんふんふん、ふんふんふんふんふんふん、ヘイ♪」

「へい♪」

その足下で、三人の子供たちも母親の鼻歌に唱和しながら、思い思いに飾りをぶら下げている。

小さな手が小さなベルやミニチュアを吊し、ツリーが飾り立てられていく。

アスカ自身も、電飾をぐるぐる回し、白い綿を散りばめ終わった。

「さて、仕上げよ?」

踏み台を持ってきたアスカは、背伸びしてツリーの頂点に、でっかい大きな星を飾る。

そして踏み台から飛び降り、キッチンにいるハズの夫へと声をかけた。

「シンジー!! 出来たから電気消してー!!」

「はいはい」

キッチンからすかさずエプロン姿の夫がやってきた。

「じゃあ、電気消すよー?」

との声に、

「OK−!!」

と返事をしてからアスカは電飾のスイッチを入れた。

真っ暗になった室内に、たちまち浮かび上がるイルミネーション。

一定パターンで明滅する小さな光の乱舞に、子供たちはいうに及ばず、その母親も感嘆の声を上げた。

紅葉のような小さな息子たちの手が盛大に打ち鳴らされる中、アスカは悠然と胸を張りリビングを横切る。

壁際に立ったままのシンジを押しのけ、リビングの電灯のスイッチを入れば、たちまち子供たちが不平の声を上げた。

途端にぶーぶー文句をいってくる子供たちは無理もない。

頑張って飾り付けたツリーをまだまだ見ていたいのだろうけど、それは後でもゆっくり見られることだ。

腰に手をあて、アスカは子供たちを見下ろす。

「もうそろそろご馳走ができるんだから、その前にお風呂入らなきゃ」

「え〜〜」

子供全員、面向かって母親に逆らうような事はしないけど、あからさまに不満そうな態度。

もともと聞き分けの悪い子供たちではないのだが、今日に限ってアスカには切り札のようなものがある。

順々に子供たちの顔をのぞき込み、意地悪そうな表情で一言。

「…良い子のところにしか、サンタクロースは来ないわよ?」

反応は劇的だった。

全員、弾かれたように顔を上げ、長男を先頭に先を争うようにリビングの入り口へ殺到する。

次男はともかくまだ三歳の末娘に至っては、事態を正確に把握しているというより、ノリに近いものに思われたが。

案の定、ワケも分からないままそれでも兄たちにつられて走っていた末娘は、入り口付近で転倒した。

ビタン! と床に顔を打ち付け、うずくまる。上げられた顔の大きな瞳には、たちまち涙が盛りあがった。

今にも泣きだしそうな表情。

ところが、両親が駆けつけるよりはやく、飛び出していった長男次男が舞い戻って来た。

二人とも必死の形相で、凄まじい勢いで、妹をなだめ始める。

「だいじょうぶ、いたくないたくない!」

「いたいのいたいのとんでけー」

「いたくないったらいたくない!」

「しんとーめっきゃくてんまふくめつだよぉ!」

常ならぬ兄たちの狂態に、妹はきょとんとした表情を浮かべてしまう。

「よし、だいじょうぶだ、いこう!!」

涙が引いたのを確認すると、返事も待たず、兄たちは妹を引っ張りあげた。

結局、妹を中心に挟むようにして(ほぼ強制連行の形で)兄弟三人は行ってしまう。目的地は浴室だろう。

勢いの良い足音に苦笑しながらアスカは呟いた。

「なんか、切り札というより加速装置みたいなもんだわねー」

「え? アスカ、なんかいった?」

「ううん、なんでもないわ。それより、料理の方、お願いね?」

不思議そうな表情を浮かべるシンジに軽く手を振り、アスカも浴室へと向かう。
















パジャマ姿で元気よくリビングへ駆け込んでくる子供たちを、シンジは優しい微笑で出迎えた。

折良く、料理用の皿も配り終わったところ。

後は温かいシチューを盛りつけ、シャンパンでも抜けば、すぐに食事が始められる寸法である。

子供たちが席へ着くのを見計らったように、着替えたアスカもやってきた。

先ほどのジーンズにブラウスという格好ではなく、カシミヤのセーターにラメ入りのロングスカートを履いているあたり、それなりに華やいで見えた。

もっとも、碇家で催されるクリスマスパーティは、毎年友人知人を招いて行われるのが常である。

その際の彼女は煌びやかなカクテルドレスなどを着込むのだったが、今年は家族水入らずだ。

例年ほど着飾る必要もないと判断してのことだろう。

シチューを配って、エプロンを脱ぎ、シンジはシャンペンを抜栓する。

子供たちにはシャンメリーだ。

五つのグラスが宙で打ち鳴らされる。

手の届かない子供たちがテーブルに一生懸命身を乗り出してきて、シチュー皿をひっくり返しそうになる。

危なっかしくも微笑ましい。

手製のローストターキーを切り分け、ホワイトシチューは海鮮仕立て。

舌鼓を上げて料理と取っ組み合いをする子供たちを微笑ましく眺め、シンジはゆっくりとシャンペンを舐めた。

「おかわり!!」

「おかわり!!」

「おかわりぃ!!」

元気よく差し出される皿に、慎重に七面鳥を切り分ける。

骨が混入しないように。そして末娘には柔らかい部位を…。

料理をする方にとって、喜んで食べてもらえるのが一番嬉しい。

ましてお代わりまでしてもらえば最高だ。食べっぷりは子供たちの成長と元気の指標にもなる。

「あたしもおかわりー!!」

「…アスカは自分でとってよ」

子供たちにサラダを取り分けるのに忙しく、ついそういってしまったものだから、たちまちアスカは機嫌を損ねた。

「なによ、子供には取ってあげるのに、あたしは駄目だっての!?」

「い、いや、その…」

しまったと思い、慌ててアスカの方を向けば、青い瞳に涙が溜まっている。

こういうパターンは、率直に激昂されるより困る。

おまけに顔を両手で覆って、すんすん鼻を鳴らして泣き始めたものだから余計タチが悪い。

フォークとスプーンを口に運ぶのを止め、子供たちは両親を交互に見比べる。

「おかーさん、泣いてる?」

「いじめた?」

「おとーさん、いじめた?」

純真な瞳が事のほか痛い。

「え、えーとね…」

視線で助けを求めると、アスカの目とあった。

手の隙間から覗いた瞳は笑っている。しかもピンクの舌まで出していた。

「アスカ…」

なんとかいってよ、とばかりに視線を送っても、アスカは顔を覆ってぶんぶん首を振る。

あくまで泣いたふりを継続する模様。

「おかーさんをいじめちゃだめだよー」

「おとーさん、だめだよー」

「めーだよー」

真摯な子供たちの視線が刺さってくる。

ああ、本当に子供ってのは純粋だなあ。

痛さをこらえ、シンジは心中で呟く。

対して、結婚するずっと前の、中学生時代の頃のアスカの性格の良さといったらもう…。

今は確かにだいぶ優しくなったけど…精々五倍返しが三倍返しになったくらいかな?

シンジの推察は正しく、アスカは一向に助け船を出してくれない。

結局、5分以上子供たちのいたいけな視線に晒される羽目になった。

おまけに、彼女の機嫌を直すために、食卓を挟んでキスまで披露させられてしまう。

「ね? これでわかったでしょ? おとーさんはおかーさんにぞっこんラブなのよ?」

などとアスカに子供たちに説かれては、苦笑する他なにができるのだろう。

「…じゃあ、ケーキ食べようか?」

「はーい!!」

誤魔化す意味も込めてそう注進すれば、アスカまで元気に返事をしてくるのだから、苦笑は自然と微笑に変わってしまう。

いつまでもクヨクヨしてられない。別段見られても、その、キス自体は悪いことではないんだし…。

気分を切り替え席を立ち、シンジはとりあえず開いた皿を抱えた。

キッチンまで持って行き、片づけることにする。

すると、子供たちも空き皿を抱えてぞろぞろとついてきた。

「はい、おとーさん」

と、使った食器やらなにやらをピストン輸送。

普段も自分の使った食器は流しまで運ばせているが、今日はいつにも増して積極的だ。

最後の皿を返しがてら、長男が小声で訊いてくる。

「…これくらいいい子してれば、サンタさん、来るかな?」

あっけらかんとして、それでも不安そうな表情に、シンジもさすがに吹き出す。

「そうだね。大丈夫だよ、きっと」

元気よく笑った長男が去った後、シンジは食器を自動洗浄機に突っ込み、冷蔵庫からケーキを取り出す。

大きなケーキはイチゴがふんだんに使われ、チョコで出来た家も載せられている本格派だ。

抱えてリビングへ戻れば、またまた歓声が上がる。

細心の注意を払い、シンジはケーキを等分に切り分けた。

大きさが偏れば、また何をいわれるやら。

努力の結果、正確無比のサイズのケーキが各自の皿に分けられる。

ほっと胸をなで下ろし、フォークでケーキをつつき始めた全員を優しく眺め、シンジは洗い物の続きを片づけることにした。

リビングに背を向けた途端、背後でわき上がる喧噪に、シンジは自分が失敗したことに気づく。

慌ててきびすを返し仲裁に入るが、もう苦笑を通り越して呆れるしかない。

一軒しかないチョコの家を巡って、幼い息子たちと熾烈な争奪戦を繰り広げる母親ってのもなんだか。










ケーキを平らげた子供たちが思い思いにリビングへ散ってしまったあと、両親二人はようやくテーブルに腰を落ち着けた。

シンジもエプロンを脱ぎ、ブランデー入りの紅茶の湯気を顎にあて、一息つく。

同じく両手でカップを抱えたアスカも、リビングに転がる子供たちを優しい瞳で眺めていた。

そうすると、彼女の表情は先ほどのはっちゃけぶりから想像もつかないくらい大人びたものになる。

相変わらず綺麗な妻の横顔にシンジは視線を注いだ。軽く上気した頬は先ほどのシャンパンのせいか争奪戦のせいか。

あまりの艶めかしさに自分の頬も赤くなっていくのが分かる。

視線に気づいたのか、アスカがこちらに向き直った。誤魔化すように咳払いをしてシンジはポツリと一言。

「…そろそろかな?」

「そうね、ボチボチ来るのかしら」

青い瞳が壁の大時計を見た。

二人が待っているのは『サンタクロース』だ。

碇家には、毎年、イブの夜にサンタクロースがやってくる。

薄いサングラスをかけた、おそらく世界一いかがわしいサンタクロース。

その正体は、いわゆる変装した祖父なのであるが、子供たちにとっては本物以外の何ものでもない。

だからこそ、アスカの脅しは文句は真実として値千金の価値を持つ。

本式のサンタクロースなら、子供たちが寝静まった後にきて、こっそり枕元にプレゼントを置いていくのだろうけど、碇家にくる怪しいサンタはあくまで手渡しに固執している。

だから早めの食事を済ませ、子供たちは後は寝るばかりにして、最後にして最大の楽しみを待つのだ。

「この子たちはいいわね。サンタクロースを信じられて…」

しみじみとアスカは呟く。

「そうだね…」

シンジの心情もアスカと同じだ。

自分の子供のころを回想してみる。

考えてみれば、僕はサンタクロースを信じるとか信じないとか、それ以前の問題だった。

だいたい、赤の他人の家で育てられて、どうやってそこまで夢を見ることが出来る?

今更父親を恨む気持ちはないけれど、幼い頃の記憶はほろ苦い。

黙っていると、アスカの明るい声。

「あたしも、四歳くらいまでは信じていたんだけどね。正確には、サンタなんかいないって気づいたんだけど」

「へえ…」

そんな小さなうちに気づくのは、やっぱり頭がよかったからかな?

などと考え、感嘆を漏らすシンジに、アスカはふと遠い目をして続けた。

「四歳のクリスマスにね、『元通りの綺麗なママをください』ってお願いしたけど、かなわなかったから…」

「……」

言葉を失うシンジの鼻先を、アスカの細い指が弾き上げた。

「そんなしけた顔しないでよ! だいたい、アンタも似たようなもんでしょ?」

真っ直ぐ微笑まれては、微笑み返さないわけにはいかない。

アスカの空いた左手がゆっくり卓上を滑り、右手を握ってきた。

ひんやりと滑らかな感触から、じんわりと熱が伝わってくるような気がする。

指をからめながら、なんとなく気恥ずかしくなったシンジは、子供たちを見るふりをして顔を逸らした。

あからさまに照れている夫に頓着せず、アスカはなお語りかけてくる。

「あのさ、この間読んだ絵本に、こんなお話があったの…」









あるところにとても仲が良いけど、貧乏な家族がいました。

お金はないけれど、それなりに楽しい生活を送っています。

やがてクリスマスの日がやってきました。

お母さんは一生懸命頑張ってご馳走を作ったけれど、プレゼントだけはどうしても買えませんでした。

子供達は、お父さんに訊ねます。

ねえ、お父さん。どうしてうちにはサンタさんが来てくれないの?

お父さんは答えられません。

ふだんは聞き分けのない子供ではないのですが、今日ばかりは必死です。

なぜなら、学校で友達がいっていたからです。

本当はサンタクロースなんていないんだと。

お父さん、お母さんがその正体なんだと。

お父さんは困り果ててしまいました。

だから、本当の話をしようとしたその時。

外から、涼やかなベルの音がします。

窓のカーテンを開ければ、なんと空からソリが降りてくるではありませんか!

サンタクロースは本当にいたのです。

ソリから降りてきた白いおひげのサンタクロースはいいます。

メリークリスマス! よい子にプレゼントを持ってきてあげたよ

大喜びで庭に飛び出す子供たちにプレゼントを渡し、サンタは子供の頭を撫でながら説明しました。

昔と違って子供が増えたから、サンタクロースの数が足りないこと。

だから、毎年、全ての子供たちにはプレゼントを配れないこと。

でも、よい子のところには、必ずやってくること。

子供たちが大喜びで手を振るなか、サンタは次のよい子を探してソリに乗ります。

最近は、煙突の無い家が増えて困る、なんて呟きながら。







「…いいお話、なのかな?」

それがシンジの感想だった。

おそらく近年作られたお話なのだろう。なんとなく教訓めいたものが希薄だし、オチも弱い気がする。

「さあねえ」

アスカも曖昧に笑って、

「でもね、この話にあるとおり、あたしたちにもサンタクロースがこないかなって…」

「…僕たちは、いい子かなあ?」

「そりゃそうよ。世界を救った最高にいい子よ、あたしたち?」

互いに顔を見合わせ、次の瞬間、二人は吹き出した。

子供たちが驚いて振り向くくらいの笑い声。

不思議そうな顔をして駆け寄ってきた子供たちを優しく追い散らしながら、夫婦して目尻の涙を拭う。

「じゃあさ、そのいい子のアスカは、何が欲しいの?」

まだ口の端に笑みを浮かべたままシンジは訊ねる。

「えーとね、カルティエのラブブレスでしょ、ブルガリのネックレスに、シェルカメオのブローチもいいな♪」

指折り数えていってくるが、シンジには冗談だと確信できる。

どのようなアクセサリーを身につけようと、それらは彼女自身の美しさを際だたせるので精一杯だ。

何にも増して、アスカこそが美しいのだから。

それにいい子うんぬんいったところで、子供を三人も産んだ立派なお母さんだからね。

だからシンジも冗談で返す。

「そんな高級品ばっかりねだる俗物な子供なんていないよ…」

「そお? でも、これくらい貰ったって、バチは当たらないわよ、ほんと」

アスカが頬を膨らます仕草をして見せたとき。

全く不意に屋敷中の電気が消えた。

次男と末娘は見ていたTVが消えたのに驚き、クリスマスツリーを見上げる格好で床に転がっていた長男は跳ね起きる。

両親も思わず周囲を見回して、そして見た。

薄暗いリビングの窓に、カーテン越しに浮かぶ明るいシルエット。

両親が止める間もなく、子供たちは勢いよくカーテンを開け放ち外に飛び出していた。

庭先には、トナカイに引かれたソリ。

そしてソリの上には白い袋を抱えた白髭の赤い服のおじいさん。

まごうことなきサンタクロースがいた。

今年の演出は凝ってるなあ、などとゆっくりやってきたシンジとアスカの目前で、子供たちはソリから降りてくるサンタにじゃれついている。

子供たち全員裸足だけど、まあ仕方ないか。後でまたお風呂に入れればいいんだし…。

「おとーさん、おかーさん、サンタさんがまた来てくれたよ!!」

と興奮しきりの息子たちを、シンジは笑顔で見やる。

そして子供たちにプレゼントを配るサンタにも視線を移した。

ここで「父さん、お疲れ様」などとねぎらうわけにはいかないので、ぐっと我慢。

よくよく見れば、今回はサングラスをしておらず、ふさふさの白い眉と口ひげの本格派だ。

恰幅のよい格好も、きっとコスチュームの下に詰め物でもしているのだろう。

…そういえば、アスカはどこにいったのかな?

気づき周囲を見回せば、好奇心旺盛なその妻はサンダルをぺたぺたさせながら、ソリにつながれたトナカイの側にいた。

「見て見て、本物のトナカイだわ。へえ、ほんとに赤鼻にしてるんだあ…」

興味津々といった体で、トナカイの鼻を撫でたり、角を掴んだりしている。

されるがままのトナカイだったが、その目が少し潤んでみえたのはシンジの気のせいだろうか。

「…って、アスカ、いくら大人しいからヘッドロックなんかかけちゃだめだってば!!」

「だって、鳴きもしないのよ、このトナカイ? 作り物じゃないの?」

なお真相究明したがるアスカを無理矢理引きはがしたところに、どういうわけかサンタクロースがやってきた。

「…?」

二人が顔を見合わせ頭の上に疑問符を浮かべていると、サンタは白い袋に手を突っ込んでみせる。

取り出されたのは、綺麗に包装された二つの包み紙。

一つは正方形でもう一つは長方形。

無言で差し出してくるそれとサンタの顔を見比べたのも束の間、

「これ、あたしたちへのプレゼント…?」

アスカのおそるおそるといった問いかけに、サンタはゆっくり頷いた。

「あ、ありがとう…ございます」

受け取ったアスカは、しどろもどろに礼をいう。

シンジには、表情の選択に困る彼女の気持ちがよく分かった。

だって、父さんがプレゼント手渡ししてくるんだもんなあ…。

しかし、とりあえず自分だけでも笑顔で受け取らなければ。

「ありがとう、サンタさん」

子供たちの目もあったので、とりあえずそう礼をいった。

サンタクロースだって正体を看破されればたまったものではないだろう。

だからといって、全く孫に気づいてもらえないとすれば、それはそれで別の祖父としての葛藤もあるのだろうけど…。

サンタはまたまたゆっくり頷くと、袋を背負い直し軽く手を挙げてみせた。

「ありがとー、サンタさーん!!」

「ありがとー!!」

子供たちの声に送られ、ソリに乗り込むサンタクロース。

もう一度子供たちに手をゆっくり振ってから、サンタはトナカイにムチを入れた。

滑らかにソリが動き出す。

そして、なんとソリは宙に浮かび、夜空めがけて走り出したではないか。

澄んだ鈴の音をならしながら、トナカイに引かれたソリは軽やかに夜空を翔けていく。

子供たちは何も疑問を抱かず無邪気に手を振っていたが、シンジとアスカは茫然と見送るしかない。

一体、あのソリはどういう仕掛けなのだろう?

トナカイは本物に見えたし、機械音とかも何もしなかったし。

目を丸くするオトナ二人は、背後の屋敷から響いてくる電話のコール音に我に返る。

振り返り、屋敷中の電気が元通り点灯していることをさして疑問にも思わず、シンジはサンダルを脱いでリビングへ上がった。

それは、大方の予想どおり、父からのものだった。

父からのものだったのだが…。

果たして、リビングの縁に腰を下ろし、子供たちの泥だらけの足をタオルで拭っていたアスカは、狐につままれたような表情の夫がやってきたのに気づく。

「…どうしたのよ?」

ゆっくりと顔を下げてきたシンジの表情は、形容するのが難しいものだった。

愕然といおうか、不可思議といおうか…。

「ねえ、アスカ、今の電話さ」

「ええ。お義父さんからでしょ?」

「うん。なんでも、ぎっくり腰になったみたいで、ギリギリまで行こうとしてたけど、やっぱり駄目だったって。

 で、プレゼントだけは今夜中に送るって…」

「…え!?」

末娘の足を拭く手を止めて、アスカは顔を上げた。

夫の顔を見て、続いて窓の外の星空へと視線を向ける。

「じゃ、じゃあ、さっきのあれは…?」

視線を固定したまま、二人はまったく異口同音に呟いた。

「もしかして、本物の…?」





















翌朝、アスカは遠くではしゃぐ子供たちの声に目を覚ました。

寝乱れた髪をかき上げながら上体を起こし、周囲を見回す。

隣に寝ていたシンジの姿はない。朝食の準備を始めたに違いない。

小さな布団に子供たちの姿もなかった。

きっと、昨晩もらったプレゼントで早速遊んでいるのだろう。

なにせ、今年はプレゼントが二つずつあるのだから…。

遊んでいるなら遊ばせておけばいい。シンジがご飯だよ、って呼びにくるまで寝よう…。

そのままばふっと再度枕に頭を落としたアスカだったが、まるで枕の中にスプリングが仕込まれていたかのように跳ね起きた。

…プレゼントが二つずつ? すると…!?

勢いはそのままに、枕もとを漁る。

…あった。夢じゃなかった。

アスカの両眼は、二つの包み紙を見つけ、優しく細められている。

昨夜、サンタクロースから手渡された、自分とシンジへのプレゼント。

夫シンジへのプレゼントは、スネークウッズのチェロの弓。

そしてもう一つのプレゼントは。

それを抱きしめながら、アスカはごろんと仰向けになる。

心地よい興奮と感動が胸を暖かく満たしていた。

やはり、サンタクロースはいたのだ。

本物でなけりゃ、こんな最高のプレゼントなんかもってきてくれやしない。

アスカは抱きしめたそれに視線を落とす。

遙か昔、そう、まだサンタクロースを信じていたころにもっていた、一番のお気に入り。

どこへいくのも一緒だった、初めての相棒。

無邪気に微笑むそれは、ずっと見慣れていた、それでいて真新しいサルのぬいぐるみだった。

…それにしても、これって、こんなに小さかったかしら?

黒いビーズの瞳をじっとのぞき込んでやる。

丸く歪んだ自分が見えた。

なぜか、とても幼くてピュアな嬉しさこみ上げてきた。

だからアスカはぬいぐるみを軽く空中に放り投げ、力いっぱい叫ぶ。










「メリー・クリスマス!!」
























2004/12/25




戻る